池上彰
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日本人に限らず、人間は社会的な動物です。そうである以上、大成功を収めた場合も、ほかの人や周りから何かしらの恩恵を受けているのは確かです。社会の一員である以上、「おかげさま」の精神は必要なのです。
私の場合、猫のように特定の人間になつかないというのが理想です。派閥に入ったら、そこがコケたら自分もアウト。NHK時代、これは派閥に勧誘されているのだなと感じても、気づかないふりをしていました。面倒だから、あらゆるものから距離を置きました。職場の飲み会も一次会まで。二次会は行きません。そんなヒマがあったら違う業界の人たちと知り合うことです。
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家庭の雰囲気って、大きいと思いますね。私が本好きになったのは、父親の影響も大きいと思います。
NHK時代からやっていて、いま意外に役に立っているのが語学の勉強でした。警視庁担当で夜回りをしている時期、深夜に住宅街で刑事を待っている間に時間があるでしょう。そのときにやっていたのがNHKの「ラジオ英会話」や「ビジネス英語」。街灯や自販機の灯りのもとでテキストをひたすら読み、暗がりでブツブツそれを読み上げて暗唱する。どう見ても危ない人ですよ。喫茶店など明るいところで待つことができるときは経済学の本を読む。資格を取ろうとか、将来何かの役に立てようなんて気はなく、ただひたすら時間がもったいなかったから。それがいまになってすべて役に立っている。語学力はいろんなところで武器になります。あとは歴史。とくに近代史をしっかりと勉強するといい。
業績が秀でていたり、事業が成功したりしても、愛される人と、疎まれる人がいます。この違いは、謙虚さの有無、あるいはそれの程度の差にあるように思います。愛される人は、たとえ血のにじむような努力をした結果、成功をおさめたとしても「みなさまのおかげで、ここまで伸びることができました」と言うなど、謙虚な姿勢や雰囲気を持っています。一方、疎まれる人は「俺の才覚で、ここまで来たんだ。どうだ、すごいだろう」という雰囲気がそこかしこから漂います。
いろんな世界で成功された方って、皆さんブレない。
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とりわけビジネスの世界で成功される方って、読書好きの方が多い。
しっかり準備をしたつもりでも、思わぬ質問が飛び出し、驚かされるのが面白いところ。私は私で違う視点から見ることができるわけです。こういう化学反応が楽しくて、書くのが好きと言いながら情報バラエティをやっているように思います。
いざとなったら、ここがダメでもほかの収入もあるというのは大事。テレビのコメンテーターが専業の人は、それが干されたらおしまいだからどうしてもバランスを取ったコメントをしてしまう。私の場合は、選挙特番で政治家を怒らせてテレビから干されてしまっても、本で食べていけると思っているから辛口で突っ込めるわけです。
悪口や陰口は、当然ビジネスをする上でも気を付けるべきことです。ビジネスマンは、少なくとも顧客の前ではよその会社の悪口や噂話を絶対に言ってはいけません。
「週刊こどもニュース」で痛感したのは、かいつまんで説明することの難しさ。話す本人が全体像を掴んでいなければ語れません。断片的なニュースを集めて、中途半端な理解で解説しても、子供たちは「?」を顔に浮かべたままでした。
会社の論理に染まって悪事に手を染めたり、働き過ぎで倒れたりして、自分を見失わないでほしい。最後は自分で自分を守るしかない。そういう意味で強くあってほしい。組織よりまず、自分を大切にしてほしい。
ストレッチさせない限り、人間は成長しない。アスリートが筋肉を鍛えるのって、それですよね。
報告書や提案書を書くうえで何より大切なのは、各会社や職場にある書面のフォーマットを知ることです。たとえば報告書なら、「目的」「内容」「結論」といった必須の項目があるなど、一定の形式があるものです。まずはこれを、しっかり抑えてください。このフォーマットにのっとった文書の手本があれば、それを徹底的に研究するとよいでしょう。職場に手本がない場合は、上手な先輩社員などの書面をみせてもらい、コピーして、やはり徹底的に研究してみてください。
社会部で警視庁捜査一課担当になってからが地獄でした。捜査本部のその日の捜査が終わり、捜査会談が終わるのが夜の10時。それから彼らは一杯飲んで終電で帰る。午前1時くらいですよ。それをこちらは待ち伏せる。家の前で待つと他社に気づかれるので、途中の住宅街の電柱の陰に隠れて待つ。パトカーが来て職務質問されたりしたこともありました。そんなことを1年365日のうち、360日繰り返す。家に帰って寝るのは深夜3時。ところが朝5時に「特ダネを抜かれている、いますぐ追いかけろ」と社から電話がかかってくる。こういうことを2年間やったら、世の中につらい仕事はなくなりましたね。
諜報活動をする人たちの情報源の98%は、対象国の新聞などの公開情報です。それをどう加工するかが彼らの腕の見せ所になります。新聞などから得た複数の情報をかけあわせ、新しい視点を導き出す。その視点がインテリジェンスです。
説明するというアウトプットを意識してインプットをすると、スムーズに必要な情報が頭に入ってくる。
かつて西武百貨店の社長に就任した堤清二さんという人がいますが、社員に向かって「組合を作れ」と言った。これには社員のほうが驚いたと言います。組合がなければ、経営者にとって都合の悪い話は上がってきません。堕落を防ぐために、意識的に批判者を作ろうとしたのだと言います。
記者が警察のところに行って、なにかありますか?と漠然と聞いても何も答えてくれません。情報収集を行い、それをもとに自分の読みを立ててから質問すれば、警察もこちらに一目置くようになります。仮説を持って取材に行くから、相手との信頼関係が生まれるのです。それはビジネスなどの営業活動でも同じでしょう。いい結果を生むのは相手との良好な信頼関係です。相手から信用を得るには、入手できる情報から、自分なりの仮説を立てることが重要なのではないでしょうか。
人間の気持ちがわかるとか、人情の機微を感じ取るとかいうことは大切。
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