松田優作
0
勝負じゃないんだ、一緒に作っているんだ。監督に勝てるわけはないんだから。ただ、バカな監督が多いから俳優が勝てるだけでね。でも、いるんだな、とんでもない監督がね。ちゃんと見ている。監督は現場でアンテナ張っているんだ。俳優は演じる、ということで電波を出しているけれども、同時に見られている意識がある。それを判断しようとしている監督が、俳優の電波をかんじ「違うな」という。そうすれば、今度は、俳優が「何ミリかな」という確認をする。俺がそうした微調整ができるとなれば、今度はそれに応じて監督の要求も多くなる。
足を5センチ切ろうかと思った。
実際に自分の生きているリアルタイムと、それからその役に人格を吹き込んだときに、その人格が何センチか浮いたりなんかするとき、なぜ浮くんだろう?と、いうようなことを具体的に画にしていくという作業をやっていくときに、ナルシシズムとか、そういう言葉じゃなくて、やっぱり芸術してるとか、そういう気分になるときがあるんですよ。その時は客もクソもないですからね。
1
それほどひどい状態だと分かっていたら俺はタバコもやめて、酒もやめて、きちっと自分で努力していたはずだった。何でちゃんと言ってくれなかったんだ。
3
おれはまだ発展途上人なんですよ。かつて積み上げていったアクションスターとしての自分が、邪魔っけでね。
野獣死すべしやる時にね。まぁ前に藤岡さんとか、やっててね。で、代表作ですからね、大藪春彦さんの。嫌でね、やる時に。このことについて相談してああいうふうには絶対にしないと、一切、こっちでやりたいと言ったけど。とにかく野獣死すべしで伊達のね、肉体を全部捨ててしまおうというのがあって、だから街中でひっそりとしてる男を演じるためにはどうしたらいいのか、ってね。真剣にね、足を5cm切ろうかと思った。で、調べたりなんかして・・・。実際にね、2m50くらいあるアメリカの女の人が、10cm切ったっていうのがあるんですよ。だけど、その時はいいんだけど、一生歩けないわけじゃない?松葉杖でねぇ。本当に切ろうと思ってね・・・。
丸山と二人で反省したんだわ。正直言って、このホンに俺は相当入れ込んだからさ、やっぱり・・・。アカンね。だめ、つまんない。自分が一緒になってやったから余計そう思う、というわけじゃなくてね。今までのあれにすればさ、そう悪くないと思う。だけど上にハネてない。それは俺も錯覚があったからさ、えらい勉強になってます。今回。ああいうマニアックな部分じゃないの。マニアックなのは次やりますから。
深作さんはスゴイよ。メジャーの中にいて、唯一いろんな企画にチャレンジしてるもの。それなりの俳優使ってきちっと遊んでる。唯一すごいと思う監督だな。対照的なのが伊丹十三だよ。あのバカ。本人は遊んでる気なんだろうけど、三國連太郎さんと山崎努使って、あの程度っきゃできねェ。あんなの大人の遊びじゃねェ。子供だよ、子供。あれでもっと豊かに、もっと素直で激しく、危険にっていうのが加わればいいんだ。才能はあるんだもの、彼は。ちょっと子供の遊びが過ぎてんじゃないの。
気持ち良かったとしか、もう言いようがない。前回の工藤さんの時もそうだったし。少しずつ社会復帰してくるとさ、ひとつ終わったなという、終わった後の問題があるんでね。もう公開が始まっているけど、あんまり関係ないのね。原田さんとか道代ちゃんとか鈴木さんと会えて酒が飲めるのが幸せなぐらいでね。
相手の女優さんの手に触れただけで、思いが通い合うような…そんな演技をしてみたい。
レコードとか、音方面に関しては後悔しますね。音楽に関してはまだ幼稚園ですから、ときめきと震えと不安しかありませんけど、映画の場合はその度その度、上がってくるラッシュを見ながら監督なんかと確認しあったりね。取りこぼしたり、付け加えたりという作業だから、ラッシュを見ないと自分の場合は。もちろん、映画のケースにもよりますけどね。だから、全部含めてですから、試写室に入ることも、映画を撮るときも、どこがどうって切れ目がないですね。
全然、違うぜ。何がっていうわけではないが、とにかく役者に対する要求もそうだ。マスターショット撮りだから、同じ事を何度も繰り返す。その度に芝居を変えたり、カメラの位置も引いて撮った後にアップと繰り返すのだが、監督の要求に対して「出来ない」とは絶対に言えないんだ。出来なければ「なぜだ!なぜ出来ない。君は俳優だろう。演技をすることでギャラを取っているんじゃないのか。それが、どうして要求するようなことが出来ない」というわけだ。出来なければ簡単なことでクビだ。それはスタッフにしてもそうだった。もう助監督が早速クビになったんだ。
僕は彼のあとから追いかけ、しがみついている感じ。きっと生涯抜けないんじゃないですかねえ、あの人を。ぼくとは妙な因縁といいますか、「太陽にほえろ!」で一躍有名になって、番組を抜けて、そのあとがまに入ったのが僕だったでしょう。それが僕にとって大きなことでしたからね。ライバルっていうふうに自分で思うほどライバルじゃなかったんだけど、えらくでっかい人で。彼がいたんで、いつも追っかけてる、ここ何年間、彼のおかげで触発されてきたっていうのはありますよね。
自分は死んでも、肉体は無くなるんだけども魂ってのは宇宙にいる。宇宙に無数の星みたいなのがあって、その一個が私の魂の星なんです。それが何年か後に、私と同じ様な人間がまた出て来る。その魂と同じ気持ちを持って出て来る。魂ってのは絶対になくならない。その中で魂を強く持ってる、それが必ず未来に出て来るんです。
2
理想とか、無理ですよ、やっぱり。向こうの感覚に合わせるというのは、時差なんか違っちゃうとね。時差が違っちゃうと同じ人間じゃないと思っちゃうから。だから、こんな狭い国で意識だけはメジャーとかマイナーとか言ってても、そんな差は基本的にないですからね。あっちゃの国だったら、ニューヨークじゃバンバン撃っている、カリフォルニアじゃサーフィンやっているなんていう広い国でしょ。こっちの国は基本的には法律っていう決められ方がしっかりしているでしょ。だから何がメジャーで何がマイナーかというと、ルールを破った者がマイナーで、ルールに合わせていくのがメジャーだと。そんぐらいの物差ししかないんだよね。別に部落性も地域性もあるわけじゃないしね。そんなことを考えてたら、この国で考えている「理想」っていう言葉ってものは、できれば向こうの話と比べて、どっかに無理だという感じがあるね。つまり結局は、かなり下の方の話なんですよ、そんないい話をしても。
でも、ダメですね最近は。すぐ酔っちゃうから。このごろ、映画に入ってからはほとんど飲んでませんなあ。2、3杯くらいいっちゃうと、もう、いい気持ちになって、そのまま寝ちゃうというふうにね。どうなんですかねえ。年なんじゃないすか。
それで、芸人はその、なんすか、あの、悲惨な方がいい、破滅型がいいとかなんとかいって、みんな泣きながら死んでいくわけだからね。結局最後は・・。自由になれなくて、結局。なんかお酒でいったり、女にいったりとか。そんなのは結局しばられていくわけだから。結局、自由じゃないですよね?
多分お前が悪性の病気になったら、俺は分かると思う。般若心経の写経と座禅を始めてから、いろんなものが見えてくるようになった。相手の精神とか、身体の状態なんかがな。
俺は豊のファンなんだ。見ていてさびしい人だなって感じるんだな。さびしい人だよ、豊は。たったその言葉だけで片づけてしまうのは非常につらいけど、さびしい人だよ。生活とかそういうことじゃなくて背景がね。ゼロ歳から25歳の今までの、その背景がね。25年間、目一杯付き合っているわけじゃないけど、なんとなくわかるんだ。
僕みたいなチンピラでもやっていける映画界というのは不幸なのかも知れないけど、だから逆に主演できるってことは幸せなんじゃないですか。やりたいと思うことは、もうみんな先輩達がやっちゃって、何も残ってないでしょ。渡哲也さんは、最後の映画スターだと思いますよ。僕なんか、スターじゃなくてズターっていうか、ガターって感じね。でもいちいち悲観してたらやってけないってとこもありますからね。
松田優作のすべての名言