松田優作
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理想とか、無理ですよ、やっぱり。向こうの感覚に合わせるというのは、時差なんか違っちゃうとね。時差が違っちゃうと同じ人間じゃないと思っちゃうから。だから、こんな狭い国で意識だけはメジャーとかマイナーとか言ってても、そんな差は基本的にないですからね。あっちゃの国だったら、ニューヨークじゃバンバン撃っている、カリフォルニアじゃサーフィンやっているなんていう広い国でしょ。こっちの国は基本的には法律っていう決められ方がしっかりしているでしょ。だから何がメジャーで何がマイナーかというと、ルールを破った者がマイナーで、ルールに合わせていくのがメジャーだと。そんぐらいの物差ししかないんだよね。別に部落性も地域性もあるわけじゃないしね。そんなことを考えてたら、この国で考えている「理想」っていう言葉ってものは、できれば向こうの話と比べて、どっかに無理だという感じがあるね。つまり結局は、かなり下の方の話なんですよ、そんないい話をしても。
経験なんて関係ねーよ。
僕は観念的なもの、意識的なものを、自分の芝居に取り込みすぎていたんですね。で、一度自分の中に取り込んだものは捨てられない。そして何かを演じる時につい、僕はあれもできる、これもできるって風になってきてしまう。頭ばっかり大きくなってっちゃってね。日常生活のディテールの中にドラマがあったりするでしょ。僕はそんな簡単な事に長い間気が付かないでいたんですね。
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それで、芸人はその、なんすか、あの、悲惨な方がいい、破滅型がいいとかなんとかいって、みんな泣きながら死んでいくわけだからね。結局最後は・・。自由になれなくて、結局。なんかお酒でいったり、女にいったりとか。そんなのは結局しばられていくわけだから。結局、自由じゃないですよね?
ぼくはいい男とかどうとか、あまり興味ないんですよ。なにかどこかちょっとイノセントだったり、フリークしている部分があったり、肉眼ではちょっとわからないんだけど、仕草でも、しゃべり方でも、なんかリズムが違っている、どこかつまずいたりしている、破れている、そんな人って、男でも女でもチャーミングに見えるんです。
やっと出会えた仕事なんだ。
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もらってしまえば、さして感慨もないというのが「賞」ですが、手に入れるギリギリのところではドキドキしたり、不安だったり。子供っぽいところでの興奮みたいなのはあるみたいですね。単純、かつ複雑に嬉しいてところですけど、とりあえずは、ひとつのケジメになったと思います。キネマ旬報の賞は欲しかったもんですから、ここは正直に「素直に嬉しい」ということでいいんじゃないかって思います。
いまのぼくの大部分は彼女から得たものですね。男は女から教わるものがたくさんある。すべてがそうだと言ってもいいんじゃないですか。
3日後にロケが終わる。バンコク空港で待ってるから来てよ。ちょっと二人でプーケットへ行きたいと思っているんだ。ユーさん、まだまだ。あれは松田優作プロモーション・ピクチャーだよ。
山崎努さんにしても緒形拳さんにしても、バランス悪いところはあっても、常にその反対側にどっかスケベエな感覚を持っているから、生活部分はそれとしておいてやっていける、それが色気になっているんだろうと思いますけど、ぼくら、どうしてもまだ幼いからねえ。いずれ、だから、スケベエになっていかなきゃいけないんじゃないかという風に思いますけどね。と思いたいんですけどね。
意識はもうほとんど世界なんですよ。
今すごく自分の中でさえてるなと思ってる時間、たくさん持ってるけど、それはやっぱり、死ぬまで続くものでもないですから。だけど年とっていくと、だんだん単純になっていくと思うんですよね。その時に、かなり鋭利にものを考えれるようになっていてもいいんじゃないかと思うんだけど、それにしても、やっぱり鈍くなっていくと思うしね。やっぱり今、自分が複雑にものを考えたりすることを、いちいちね、拾っていくとこんぐらがってくるから、とりあえずやることだけ、今見つけて、やってはいるんだけれど。そん中で、こぼれていっちゃったものとか、その時期にやってけなかったものとか、拾い歩く作業を、こしこれから四十ん8いなった時とか、やってけるようだったらね。そんな時には立場を変えて、プロデューサーしてたり監督してたりとか、そういうことはあるかも知れないね。
彼は、実に痛快な日本のテレビドラマの主演で知られている、本質的にはコメディ俳優だった。たぶん、優作は大勢の女性ファンから愛されていた人気者だったろう。ともかく、日本では絶大な支持を受けていた男だ。個人的には、彼をどんな風に感じていたかって?実に良い奴だったよ。正真正銘のナイス・ガイだった。
ぼくにはもうピストルを持って走ること以外できないんじゃないかって……セリフのひとつも満足に言えない。
興味なんてものは、まずは自分の周りにあるものを否定したり肯定したりすることから始まる。環境の中で自分の生理とか、同じ匂いがする、とかで選んでいくしかないじゃない。
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うなだれていてもしょうがない。自分はできると信じ込め。もっと前を向いて生きろ。生きてることは楽しいことなんだ。
役者っていう商売そのものは、非常に子供っぽい自己中心的な商売ですから、ある意味でそんなことに気を遣わなくていいといえばいいんです。演技派というか、いぶし銀のように光るというか、職人さんのようにこれだけ演らせればうまいというやつ・・・・。逆に言えば何をやっても同じということにもなるけど、そういう道もある。でも、僕は嫌ですからね。
人の死を悲しんじゃいけない。
実際に自分の生きているリアルタイムと、それからその役に人格を吹き込んだときに、その人格が何センチか浮いたりなんかするとき、なぜ浮くんだろう?と、いうようなことを具体的に画にしていくという作業をやっていくときに、ナルシシズムとか、そういう言葉じゃなくて、やっぱり芸術してるとか、そういう気分になるときがあるんですよ。その時は客もクソもないですからね。
おれはまだ発展途上人なんですよ。かつて積み上げていったアクションスターとしての自分が、邪魔っけでね。
松田優作のすべての名言