松田優作
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この前モロッコに行ってきたの。砂漠をね、老人や子供たちが水を運んでいるの。ニコニコしちゃってさ、元気なのよ。すごく!子供がロバをバンバン引いて。親父は怠け者だからだらだらして、子供は早くあんな風に大人になって怠けたり、不良やったりしたいから働いちゃうの。それが普通の生活なの。市場があって、カスバみたいなのなんだけど、夕方4時くらいから夜の12時過ぎまで人の波が途切れないのよ。大道芸人とか蛇使いとかいてね。人々の熱気とか話し声とかが、ワーンと空まで轟いて。そういう中にいると、大地の力強さみたいなのが素直にわかるんだよね。言葉なんてこんな時にしかいらないんじゃないかと思ったね。フィジカルになりたいね。今。
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結局、女を意識することは自分の男を意識することでもあるわけだから。
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あくまでも自分が考える本物志向でありたいな、と思っているし..他人がなにを言おうと。
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俺は男と女の話をやりたかった。監督や俺のような新しい酒を、古い革袋の中に入れるとどうなるかってことだよね。いい映画になります。ロバート・デ・ニーロが「恋におちて」で同じような題材をやってるよね。今までは悔しかったけど、こんどは「それから」の方が格上ですよ。今年のベストワンになりますよ。
お前、俺の酒を飲めないって言うのか?
おれはまだ発展途上人なんですよ。やたら飾りばっかりたくさんつけて……。いまはひとつひとつそれをはずしていく作業をしているわけです。まだ33歳だから間に合うよね。
俺は自分の死に様なんてわかりませんね・・・そんなもの考えた事もない!!人間は二度死ぬ。肉体が滅びた時と、みんなに忘れ去られた時だ。俺は若い人に、自分の中の変化と重ね合わせて映画を見てもらいたいんだ。
直球しか投げられないピッチャーは、ずっと直球を投げ続けていけばいいんだよ。変にカーブを投げようとか、時代に合わせてシュートを投げてみようと思わないで、ずっと速球を投げ続けてみろ。
直接には映画と関係なくても、何にでも興味が向く。今は俳句と能と詩人の世界だね。詩人は中也、それに今勉強しなくちゃ・・・・と思っているのが宮沢賢治。賢治ってさ、曲作って演奏したりしてたのね、「朝日新聞」に東北新幹線の盛岡かどっか近くの駅かで賢治の作った曲が流れるんだって書いてあったよ。俳句もね、別に「それから」やったからってことより、自然とそうなるのね。結局何でも連動してるんですよ。役者なんて商売やってるうちに何かこう、段々物足りないものとか必要なものとかが、音もなく近づくんだ。理由はないの。自分の心の匂いと応じながら、そうなっていく。
俺はまだ発展途上人なんですよ。
つねに自分をマイナスの状態にしておく。僕は足していくことよりも、引いていくことの方が好きですから。
石橋っていいんだよねえ、これが!4年前からのつきあいで、初めて会ったときひらめいたんだよね。俺っていつも人とはひらめきで出会ってるから。やっぱり理屈じゃないもんねえ。その時から、絶対一緒にやろうと思ってたからね。もしかしたら誰かが先に石橋を使うかも知れないと思ったけど、この国の映画プロデューサー達ってなまけものだし、耳も悪いからロックコンサートなんて行かねぇのね、あんまり。ほんとにあいつを4年間も放っておくなんてねえ。それが俺にとっては幸せだったけどね。あいつ、スターになるよ。絶対。
人生には、とにかくやってみなきゃわからないってことが多すぎますよねえ。やるかやらないか、それは自分の判断ですけど。
日本映画もハリウッド映画も何も変わらないですよ。ただ映画に対する尊敬の念の違い。
自分のやってきたフィルムっていうのは、宝物っていえばみんな宝物だけど、なくしたいっていやあ、みんななくしたい。
僕は別に変身してきたつもりはなかった。そういう風に言われるのは、逆にいうと「アレは松田優作じゃない」と気づく人が多くなってきたってことじゃないかな、だんだん。でもね、ピストル持って走り回ってるような役しかなかなか来なかったけど。
ありましたよ。自分の柄とか雰囲気とか、ピストル持って走ったりして、撃つことだけ、カッコよかったりすることだけを工夫してれば、何とか絵は繋がると、そういう時期もありましたからね。そういう、観客に失礼な時期が。だから「太陽にほえろ!」の時は役者じゃなかったんですよ。好きじゃなかったしね、あの映画は。自分のナチュラルな生理から言えば、ほとんど嫌なところだったというか。人間関係とかね、実際に出ている役者さんなんかもね、ほとんど嫌いでしたからね。だから「太陽にほえろ!」に入って5週目ぐらいでもう、ぶっ叩いたりとかね。助監督から、監督から、プロデューサーから役者まで全部。
経験というのは、単なる時間の積み重ねではなく、人を感じる目であったり、耳であり、皮膚感覚なわけだ。
去年の9、10月ですよね。それも変なきっかけでね。エージェントのKさんという人がいて、実は僕が「人間の証明」をやった時に助監督をやってて、ひっぱたいた事があるんですよね。その後アメリカに渡って、日本映画のいいものを入れたりしてがんばっているんだけど、去年日本に来たときに久しぶりに会って、「家族ゲーム」を見て、あれをアメリカに持っていきたいと。それと同時に、何かジャパンソサエティというところが、日本人新人監督週間というのをやるについて、それも頼まれてきているというものだから、それをある程度僕がピックアップしてあげた。つまり僕としては、日本映画を10日間なら10日間、日替わりで上映して、その中のひとつだと思っていたんですよ、「家族ゲーム」は。そうしたら、そうじゃなくて、「家族ゲーム」だけはちゃんとしたメジャーの小屋にかかって、ニューヨークタイムズのビンセント・キャンディという大変な批評家が、最高傑作だと絶賛してくれた。だから、初日の日に小屋に行ったら、もう長蛇の列で、看板も森田芳光とゴダールが同格で、でっかいやつが掛かってる。それでちょっとびっくりしちゃって、劇場の中へ入ったら、日本人はひとりもいなくて、全部外人で、それが大笑いしてるし、受け方もすごいしね。終わると、向こうの若い監督とか役者とか来て、余裕だね、こっちは。「まぁ、がんばれよ」とか。
台本を読んで地面から足が5センチ浮いた気がしたよ。
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