樋口武男
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石橋オーナーが亡くなる1年前、「創業百周年のときに10兆円の企業グループにしてくれ。それがおれの夢や」と言われました。よくぞ言ってくれたと思っています。もし、そう言われなかったら、5兆円ぐらいでいいんじゃないかと思ってしまったでしょう。10兆円と言われたから、どうしたら10兆円にできるかを考えることができます。経営者はときに、大きな夢を語ることが大切なのだと教えられたと思っています。
多くのお客さんが欲しいと思って、実際に使ってみたら助かったと。これが一番良い事業の進め方。
まずは経営者が社員をやる気にさせることができるかどうか。不要な業務や派閥、不公平な人事といった障害となるものを撤廃し、存分に能力を発揮できる環境をつくれば、大企業病はおのずと克服できるはず。
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海外担当の専務には、現地でオーナー社長やオーナー会長が健全な経営をしている会社と組むように言っています。相手とともに歩み、育てることで、自分たちも成長していく。それがWin-Winの関係です。Win-Winの関係をつくらないと事業は長続きしません。札束で乗っ取るようなことをしたら、恨みだけが残ります。
人間が持つ能力の差はたいしたことがない。モチベーションの差が違いを左右する。
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儲けだけを考えて事業を起こすのではなく、世の中のためになり、人に喜んでもらえる事業をしなければならない。
私心があれば子に事業を譲ろうと考えてもおかしくありません。しかし創業者は私を後継に指名しました。4万人を超える従業員とその家族を抱える企業のトップは、厳しいことも含めてありとあらゆることを考えなければいけません。リーダーが自分のことだけ、自分の家族のことだけがいいと少しでも考えていたら、そんな会社は早晩潰れるでしょう。
社長になってすぐ派閥を全部解消しました。専務派、常務派とか小さいのがあったのですが、私は、それは石橋オーナーの考えとは違うと信じて、派閥解消をとことんやりました。その後、派閥は一切ありません。派閥をつくったら役員失格です。
一年かかっていた工期を4カ月に短縮できれば、1年で資本を3回転できるので、利益も3倍になります。あるいは、せっかくいい土地を見つけても、購入の決裁に2週間もかけていたら、他社に買われてしまいかねませんが、その場で決断すれば、そんな心配は無用。このように、会社の発展のためにも、スピードは必要不可欠なのです。
軸を「どのような商品が世の中の多くの人の役に立つか」に置いて進めています。売上高10兆円を達成しようと思ったら、今の事業スキームだけでは届きませんから殻を破らなければなりません。その時には世の中の人の役に立つ商品が必要です。
オーナーの教えの中に、「先の先を読め」という教えがあります。世の中がどのように変わっていくか、ちょっと先を読めと。サービスのスピードが昔と全く変わっています。そういうスピードの時代に合った経営をやっていかないといけません。ずっと先だったら分からないこともありますが、世の中の変化のちょっと先をいち早く実行に移すということです。「スピードは最大のサービス」という言葉もオーナーが発した言葉です。
将来に対して、夢と希望を持ってほしい。そして、強い志を持つ。志さえあれば、逆境にあっても頑張ることができる。
多くの人々に喜んでもらって、結果として事業になる。人助けをしながら喜んでもらって事業として成り立っていったら一番良いこと。それこそ創業者の教えです。
気に入らない異動だからといって、淡々と仕事をしていたのでは将来の展望は拓けない。置かれた場所で頑張るしかない。
大和ハウス工業の創業者石橋信夫が立派だったのは、戦争や事故などで壮絶な苦労を重ねてきているからか、商売相手に思いやりの気持ちが強いということです。他人が苦労してつくった会社を強引に乗っ取るようなことが大嫌いでした。むしろ弱りかけた相手に手を指しのべる。そうすることで感謝が生まれるわけです。厳しい人でしたが、皆に尊敬される方でした。
17年続いていた事業部制を廃して支店制にしました。支店長が稟議書を書き、それが事業部を回って、最後に社長決裁では時間も手間もかかりすぎて、スピーディーな経営などできるわけがないではありませんか。それで「社長→支店長→最前線」という形にし、さらに、支店長には建築5事業に関する決裁権と、支店内の人事権を与えました。上の判断を仰がなくても、自分で決めて果敢に行動せよというわけです。その代わり、給料は年俸制で、赤字を出せば支店長のボーナスはゼロです。
オーナーの教えの中に、「何をしたら儲かるかという発想でスタートするな」ということがあります。「どういう事業、どういう商品が世の中の多くの人々の役に立ち、喜んでいただけるか」ということが、物事を考える上での基本でなければならないということであり、私はその教えが、事業を進める上での一番のベースだと思います。
自分に合うとか合わないというのはやってみないとわからない。
私はオーナーではないため、オーナー、つまり創業者のDNAをそのまま継承することを常に考えて経営をしてきました。
石橋信夫オーナーに出会えたことは幸運でした。会社と社員と家族、協力会社のことを常に思う人だった。「この人は本物の経営者だ」と思いました。大和ハウスが今あるのは、オーナーのおかげだと心底思います。
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