山田昭男
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私は基本的に誰に何のポストを与えても構わないと考えている。頭が良くなくてもいい。それなりの立場を与えさえすれば、誰だってそれなりに仕事をこなす。私はそうした考え方に基づいて人事に采配を振るってきた。
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未来工業では800人の従業員全員が正社員だ。派遣やパートを雇うことはない。これも社員が喜び、一生懸命に働く動機になっている。正社員として雇用し、30万円の給料を払ったら、社員はみなモチベーションが高まって、必ず30万円分以上働いてくれるものだ。世の多くの経営者は、パート従業員を15万円で雇ったら、正社員を雇っよりも15万円節約できたと思っている。しかし、15万円の従業員は、「安月給で働かされている」と思っているから、まず15万円分働いてくれることはない。社長や管理者が見ている前では働いているふりをするが、見ていないところではできるだけ働くまいとするのが人情だ。つまり生産性や仕事の質は著しく下がってしまう。
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実際、プラス思考の道が間違っていることもあるだろうから、そういうときはすぐ止めればいい。日本人はもともと農耕民族だから、止めるのも下手なんだ。雨が降ろうと日が照ろうと畑に出ないといけない、そのころからの習慣だろうな。でもビジネスの世界でそれはまずい。ダメだと思ったらすぐ止めろ。
以前、茨城県に新工場を立ち上げる際、5人の部長がそれぞれ自分の部下を工場長に推薦してきたことがあった。皆、自分の部下は優れていて、相手の部下は「協調性がない」「上役の言うことを聞かない」などと批判して、なかなか議論がまとまらなかった。そこで私は推薦された部下5人に円陣を組ませて、その中心で鉛筆を倒すことにした。倒れた方向の人を工場長にするという寸法だ。それぞれ一長一短あるのだったら、誰が工場長になっても同じと思ったんだ。人選を「重力」に任せたら、鉛筆は5人の中で一番経験の浅い若い奴を指し示した。茨城工場の従業員は数人からスタートして、その後、100人ほどの規模に拡大したけれども、その若い社員は立派に工場長の職務を果たしてくれた。
バブル経済が崩壊したあと、多くの製造業ではパート従業員や派遣社員を採用するようになった。おそらくその影響だろうが、昔では考えられなかったようなリコールが多発している。リコールといえば格好よく聞こえるが、要は「不良品」のことだ。パートや派遣は15万円しかもらっておらず、ボーナスも少なく、いつ解雇されるか分からず、退職金ももらえない。つまり、将来の保証も何もない。そのためやる気がなく、サボりがちで、技術を覚えない従業員が増えた。極論だが、たぶんそのせいで不良品の発生率が高まってしまったんだろう。
人のいない机の上をわざわざ照らしておく必要はない。席を外す際には、必ず自分の机の上の蛍光灯を消す。それを徹底させる狙いで、個々人が責任を持って管理する蛍光灯をはっきりさせている。
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誰だって立ち止まって迷うことがある。迷うということは、目に前にプラス思考の道とマイナス思考の道の両方があるということだ。そういうときにどうしたらいいか。簡単明瞭なんだよ。プラス思考の道を選べ。どっちが正しい道かなんて聞くなよな。そんなものわかりっこないんだから。
未来工業は休みが多い。ゴールデンウイークは例年10日程度まとめて連休にする。飛び石連休で休みの合間に出勤したら、仕事の能率はかえって下がってしまうからだ。同じ理由で、木曜日が祝日の場合は木曜日から日曜日まで、火曜日が祝日の場合は土曜日から火曜日まで、いずれも四連休にしている。合間に一日だけ出社しても、やはり仕事の能率は上がらない。能率の低い仕事しかしないのに、電気代やお茶代を使ったら、そっちのほうがもったいない。
戦後、日本の教育は、子供たちを「バカにする教育」をやってきたとしか思えないんだよ。「考えるな」「皆と同じことをやりなさい」という教育だね。だから僕は、制服や給食も反対。全部同じで横並びでは、何とか工夫しようという発想が起きないでしょ。
特殊な品物を買ったら、仁義を感じて定番のものも買ってくれる。トータルで黒字になればいい。
私には、社員のアルバイトを禁止する理由がまったく分からない。おそらく多くの中小企業が、大企業の就業規則をマネているのだろう。しかし、我々のような規模の会社が社員のアルバイトを禁止するのは、絶対に間違っていると思う。以前、当社の社員がよくアルバイトをしている温泉宿の主人が訪ねてきた。そのとき、「お宅の社員は本当によく働いてくれて、年末年始は非常に助かっている。ものは相談だが、できたらもっと休みを長くしてくれないか」と、冗談半分に話されたことがある。未来工業は休みが多い。いま以上に休みを長くすると、お客様をさらに怒らせることになるから、さすがにそれはできないけれど、休みを多く与え、アルバイトを自由にしたことで、社員たちがみな喜んでいるのは間違いない。
工夫により、職人が感動し、未来工業のファンになってくださるようになる。ファンが増えることによって商品がたくさん売れる。たくさん売れることによって会社が発展する、という図式が成立する。
製造業の一般的な勤務時間は8時間。朝の8時から夕方の5時までで、途中1時間の休憩をはさむというパターンだ。しかしこれは、日本の大部分の儲かっていない会社がやっていることだから、未来工業で同じようにやるわけにはいかない。そこで、出社時間を朝の8時30分、退社時間を午後4時45分にした。勤務時間は1日7時間15分。残業は禁止しているので、年間の労働時間は正味で1600時間となる。これは日本で一番短いそうだ。一日は24時間しかない。朝7時に家を出て、午後7時に帰宅し、8時間睡眠をとったら、残りはたったの4時間だ。これを残業なんかに使ったら、食べて働いて寝るだけの人生になってしまう。そんなつまらない生活ではなく、もっと人間らしい喜びを感じられることに時間を使ってほしい。
日本人は、みんな一緒が好きだからな。人と違うことをするのを怖がる。それがダメなんだ。だから若い人も新しいことを始められない。せっかく若いのに、もったいない。例えば会社をおこすことを想像してみるといい。何を始めようとしても、たいてい先輩の会社があるわけだ。同じことをやるほうがこわくないか?先輩会社はお金持ってる、社員持ってる、技術持ってる、お客さん持ってる。同じことをやったら必ず負けるよ。こわくないの?でも日本人はやるんだよな。
基本的には、電気設備の工事に携わる建設会社の職人に喜ばれるような工夫を心がけている。たとえば、「従来取り付けに10分かかっていたものを、1分で取り付けられるよう改良する」「従来両手で組み立てなければいけなかったものを、片手で簡単に組み立てられるようにする」「従来品よりも格段に使いやすくする」「きれいに作業できるようにする」といった観点で、規格にのっとった商品でありながら、まったく新しい価値を生み出していく。
お客様に対しても、「たくさん注文をいただいたときは、割増料金をいただきます」と宣言した。お客様からすると、すぐには理由がお分かりにならない。一度に大量に購入したら、値段が安くなるのが世間の常識になっているからだ。しかし、大量に注文が入っても、製品をつくるスピードを極端に上げることはできない。だから、どうしても残業をする必要が生じる。残業をするということは、その分社員の給料が25%割増になるからコストが上がる。さらに夜勤などしてしまったら手当は5割増になる。だから大量注文は、お客様から割増料金をいただかなければ、コストが合わないのである。ごく単純な計算なのだが、これを理解していない人がほとんどなのに驚かされる。これに対して流通業は、トラックに1000個積んでいたのを10000個に増やしたからといって、ドライバーは1人だからコストはほとんど上がらない。しかし製造業の場合、残業が必要になるほど注文を受けたら、製造にかかるコストは必ず上がる、したがって商品の単価も上がるということを、世の経営者に知ってほしいと思っている。
そもそも商売とはお客様を感動させることで成り立つ。お客様を感動させることができれば、品物を買ってもらえる。品物を買ってもらえば、その会社は必ず発展していく。どんな会社でも、お客様第一主義、お客様のニーズに応える、顧客満足など、いろいろな言葉で表現しているが、要は「感動」という一言で言い表わせるのではないだろうか。では、お客様を感動させるのは誰か。これは社員にほかならない。ならば、経営者たるもの、お客様よりも先に社員のほうを感動させなければいけないはずだ。まず社員が自分の会社に感動していなければ、お客様を感動させるような働きができるわけがない。
未来工業の会社の門には鍵がない。門衛用の小屋はあるが、門衛は雇っていない。さらに警備会社とも契約していない。つまり、泥棒がとても入りやすい状況だ。そのため、当社を訪問する人の多くが、「無用心だから門衛を雇ったほうがいい」とか、「警備会社と契約したほうがいい」などと忠告してくれる。しかしよく考えてもらいたい。たとえば門衛を雇ったら、ウチは正社員しか採用しないから、年間750万円のコストがかかる。警備会社と契約しても、それなりに経費がかかるのは間違いないだろう。仮に当社に泥棒が入ったとしても、不要な電灯を常に消して、一日中社内が薄暗くなっているような「ケチケチ経営」を徹底している会社だから、金目のものなんて何も置いていない。せいぜい古いパソコンが何台かある程度だ。つまり泥棒に入られるほうが、門衛や警備会社にお金を使うよりも安くすむ。実に単純な算数の計算だ。ついでに門の鍵を購入したら、それだってコストアップにつながってしまう。それなら門の鍵なんて買わなくていい。冗談のように聞こえるかもしれないが、コストダウンとはそのように考えるべきだと私は考えている。
私はかつて、「残業をすると解雇するぞ」と話したことがある。そういうと、幹部社員は、「そこまでやったらかわいそうだ」と反論してきた。そこで私は、「残業をしたいのは君たちの勝手だが、残業をするなら、そのときかかった電気代を、残業した人間が負担してくれ」といった。するとその後はだれも残業しなくなった。
社員への給料はいくら払えばいいのか。これも大事な問題だ。業界や地域によって、ある程度の相場はあるのかもしれないが、その相場自体、なかなか把握しにくい。一番大事なのは、社員が、友だちや同級生がもらっている給料の額を聞いたとき、「ウチはまあまあもらえているな」と思えるだけの給料を払うことだ。友人よりも給料が少ないと感じたら、社員は絶対に働かなくなる。もちろん払える額には限度があるが、「まあまあの額」であれば社員は納得する。納得すれば一生懸命に働いてくれる。では、たくさん払えばいいかといえば、それはそれで私は感心しない。仕事の内容に対して、適正な給料の額というものがあるはずだからだ。
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