山田昭男
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世の中には、「適任者がいない」「人材が足りない」などと嘆く経営者がいると聞くが、よく周りを見てほしい。目の前にいるじゃないか。猿ならいざ知らず、人間なら自らの立場に応じて仕事ができる。一度そう信じて会社の人事を手掛けてみたらどうだろうか。
いつも私は、「残業するくらいなら、お客によそで買ってくださいとお断りしなさい」っていっている。お客が逃げてしまうなことはないよ。消費者は短期的にはチラシでみて安い店の卵を買うことはあるにしても、中長期的には、気に入った店に必ず戻ってくるもの。その理由は日本人だから。荒唐無稽な話じゃない。本当だよ。だいいち、残業地獄でくたびれた顔をした社員がいる会社から、永続的にモノを買いたいと思うだろうか。規則正しい生活を送っていつも元気がよい社員が多い会社とつきあったほうが、その会社にとって長期的なメリットになるはずでしょ。
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私は、ホウレンソウなどをしても時間と労力と経費の無駄になるだけだと考えている。「報告などしなくてもいい。判断は任せる」。人の上に立つ者には、それぐらいのことを言える度量を見せてもらいたい。また、その期待に応えられる部下が育っていない会社はもともと成長など望めない。
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報連相をやめた結果、自発性のある社員ばかりという理想的な組織になった。それが、大手に負けない商品を次々と打ち出せる原動力になっている。
社員を鼓舞させるのがノルマの狙いのはずが「給料は少なくていいから適当に働こう」と考える人が出てくるのが落とし穴。だから、うちは年功序列で給料が上がる。「こんなに給料をくれるなら、もっと頑張らなきゃ」と積極的に動いてくれる。
「毎日忙しくて、残業させないと追いつかない」という管理職には、「残業させるだけの仕事が大量にあるなら、新たに1人雇え」といっている。元をとれるはずだから。でも、そういって新たに人を雇った部長はいないね。だいたい、時間内でできるようになる。1人分の仕事量なんて、全員で工夫すればなんとかなるということだよ。
人をルールで縛るからダメになる。縛りを解けばやる気になる。
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赤字企業は、一体どこに問題があるのだろうか。日本の大半の企業が赤字だとなると、産業界を支配する常識を疑うべきではないか。つまり、多くの企業が善かれと思って導入している制度や習慣は成果につながっていないと考えるのが妥当だ。
経営者が知恵をしぼって従業員が働きやすい環境をつくり、従業員が意に感じて一生懸命に働くという、ごく当たり前の経営のあり方が、残業問題のみならず、全国の7割にものぼる赤字企業の、黒字化への何よりの処方菱になるだろう。うちはべつにユニーク経営をしている会社ではなく、普通の会社なんだよ。
多くの会社は「いいものを安く」を標傍する。確かに日本の製造業はいいものをつくっている。自動車、カメラ、時計などさまざまな分野で世界トップクラスの製品をつくり、最近中国に抜かれたが、長い間世界第二位の経済大国だった。しかし、いいものを安く売ったら、当然利益は薄くなる。それが現実の数字にも表われている。とにかく日本の企業は儲けることができないんだな。
残業の原因は、経営者が知恵を絞っていないことと、弱気によるもの。「お客が逃げたらどうしょう、売上がいかなくなったらどうしょう」と、経営者がダメになったときのことばかり考えるから、社内の雰囲気が悪くなる。従業員も帰るに帰れなくなって残業が増える。事実、日本の全企業の7割以上が赤字企業。25%の割り増し残業を払い続ければ、そりゃ赤字にもなるし、大企業みたいに100億円近いサービス残業を隠さないと経営の帳尻が合わないのは当たり前。
どこの会社でも「報・連・相」、つまり報告、連絡、相談をするよう指導されている。私の会社ではこれを禁止した。なぜなら、儲かっていない会社が必ずやっていることは、ウチではやめなければいけないからだ。もちろん、役所や大企業なら、組織を束ねるために「報・連・相」を行わなければならないだろう。しかし我々のような中小企業でそんなことをする必要はない。むしろ時間や労力や経費のムダになる。いちいち上司や社長に報告などしなくても、現場を一番知っている社員に判断を任せればいい。そのおかげで、ウチでは社員が自主的に考えて動くようになった。
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好きな言葉は「小さな倹約、大きな浪費」。必要な無駄と不要な無駄を見極めろということ。数年前に全額会社負担で600人の従業員を連れてラスベガスに社員旅行にいったときは、マスコミがかなり取り上げてくれた。とてつもない宣伝効果があったと思うよ。
定年は七十歳に設定した。しかも定年まで給料を下げない。多くの会社では、六十歳を過ぎると給料を半額にしたりしているが、ウチはそれをやらない。おそらく日本では当社だけだろう。これによってどうなるか。三十代、四十代の働き盛りの社員が「おれたちを七十歳まで働かせてくれる。この会社のために頑張ろう」と思って、一生懸命に働いてくれるようになるんだ。
女性社員には、子どもを生んだら三年間の育児休暇を与えている。これも日本で一番長いはずだ。ルール上、三年ごとに六十七歳まで出産し続けたら、会社にまったく出社しないで退職金をもらうことができる。これも女性社員が喜んでくれる。だから子どもを生んだあとも、ほとんどの人が復帰して働いている。
生来のアマノジャク気質もあって、いつも人と違うことで驚かそうという山っ気がやる気の源だろうね。クールビズなんて私は十数年前からやっている。実用新案で認めて欲しいくらいだ。
私は基本的に誰に何のポストを与えても構わないと考えている。頭が良くなくてもいい。それなりの立場を与えさえすれば、誰だってそれなりに仕事をこなす。私はそうした考え方に基づいて人事に采配を振るってきた。
未来工業では800人の従業員全員が正社員だ。派遣やパートを雇うことはない。これも社員が喜び、一生懸命に働く動機になっている。正社員として雇用し、30万円の給料を払ったら、社員はみなモチベーションが高まって、必ず30万円分以上働いてくれるものだ。世の多くの経営者は、パート従業員を15万円で雇ったら、正社員を雇っよりも15万円節約できたと思っている。しかし、15万円の従業員は、「安月給で働かされている」と思っているから、まず15万円分働いてくれることはない。社長や管理者が見ている前では働いているふりをするが、見ていないところではできるだけ働くまいとするのが人情だ。つまり生産性や仕事の質は著しく下がってしまう。
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以前、茨城県に新工場を立ち上げる際、5人の部長がそれぞれ自分の部下を工場長に推薦してきたことがあった。皆、自分の部下は優れていて、相手の部下は「協調性がない」「上役の言うことを聞かない」などと批判して、なかなか議論がまとまらなかった。そこで私は推薦された部下5人に円陣を組ませて、その中心で鉛筆を倒すことにした。倒れた方向の人を工場長にするという寸法だ。それぞれ一長一短あるのだったら、誰が工場長になっても同じと思ったんだ。人選を「重力」に任せたら、鉛筆は5人の中で一番経験の浅い若い奴を指し示した。茨城工場の従業員は数人からスタートして、その後、100人ほどの規模に拡大したけれども、その若い社員は立派に工場長の職務を果たしてくれた。
バブル経済が崩壊したあと、多くの製造業ではパート従業員や派遣社員を採用するようになった。おそらくその影響だろうが、昔では考えられなかったようなリコールが多発している。リコールといえば格好よく聞こえるが、要は「不良品」のことだ。パートや派遣は15万円しかもらっておらず、ボーナスも少なく、いつ解雇されるか分からず、退職金ももらえない。つまり、将来の保証も何もない。そのためやる気がなく、サボりがちで、技術を覚えない従業員が増えた。極論だが、たぶんそのせいで不良品の発生率が高まってしまったんだろう。
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