山田昭男
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当社では、コンセントの差込口やスイッチボックス、電線を通すパイプなど、電気設備に関するさまざまな部品・器具を製造している。大部分の製品は法律で規格が定められているため、寸法や材質はどの会社がつくっても同じ。要するに、なかなか差別化しにくいものを扱っているといえるだろう。しかし私どもは、商品を開発する際、他社がまだやっておらず、他社の特許も侵害しない工夫を必ず込めるようにしている。当然、新しい工夫を思いつかなかったら、商品として発売することはない。つまり、差別化しにくい分野でありながら、何らかの差別化が実現できた新製品だけを世に送り出しているのである。
世の経営者に対して、ひとつ意見しておきたいことがある。一般的に、会社で一番給料が安いのは、入社したての女性社員だろう。その女性社員でも、自動車は自分の給料で購入している。そんなのは当たり前のことだ。「ウチは給料が安いから、社員には自動車を一台ずつ買ってやろう」などと考える社長は一人もいない。ところが、会社で一番高い給料をもらっている社長は、自分の金で自動車を買わない。必ずといっていいほど会社の金を使い、女性社員よりもはるかに高級な自動車を購入する。そして会社の金でガソリンを入れ、会社の金で車検を受けて、その車をプライベートの遊びにも使っている。そんな社長の姿を見た社員が、果たして会社のために頑張って働いてくれるだろうか。私は絶対に一生懸命働いてくれなくなると思う。普通の人間ならバカバカしくなって当然だろう。たかだか4000万円の所得を上げられない、つまり儲かっていない中小企業の社長が、会社の金で高級車を買うのは、すぐにやめるべきだと思う。そうではなく、社長も自分の給料の中から、身の丈に合った自家用車を購入すれば、それだけで社員を感動させることにつながるはずだ。
本当に産業界が日本経済の成長を憂いているのなら、法人税の引き下げを政府に要求するより先に、やるべきことがあると私は考えている。赤字企業を減らすことだ。
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給料を払っているから従業員をできるだけこき使え、という発想。そういう発想では、いつまで経っても残業はなくならないよ。
会社というのはお金を儲けるために存在する。儲けられないのであれば、存在する価値はないと思う。それならば、「未来工業では儲からない会社と反対のことをやってやろう」という発想のもとで、これまでいろいろなことに取り組んできた。その結果、後発でローテクの岐阜県の小さな電設資材メーカーでありながら、不思議なことに何十年も倒産せずにすんでいるんだ。
社員旅行には毎年行っていて、費用はすべて会社が負担している。5年に一度は海外へ旅行していて、これまでオーストラリア、パリ、ハワイなどいろいろなところに旅行し、社員たちに喜んでもらっている。数百人の社員を海外に連れて行くには億単位の費用がかかるが、社員たちが一生懸命働いてくれて稼いだお金だから、社員が喜ぶように使う。もちろんこれも仕事へのモチベーションアップにつながる。
規定時間内で成果を出すには、従業員の仕事上の不満や不安をギリギリまで減らすことに尽きると思う。
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「提案制度」もつくっている。これは世の儲かっていないほとんどの会社でもやっているので、実は私は気に食わない。しかし、提案制度がないと、せっかく提案をしたいと思ってくれている社員に不満を抱かせることになる。つまり、当社が提案制度を設けたのは、社員の不満を取り除くことが第一の目的だったわけだ。提案制度をやるからには、儲かっていない他社とは違うやり方をしなければ気がすまない。ということで、当社では、一つ提案を受け取るごとに、提案書の中身を見る前に現金500円を払うことにした。社員にしてみれば、どんな小さな提案でも一回500円もらえるからうれしい。20回提案すれば1万円になるから、これもまたいい小遣いになる。喜んでたくさん提案してくれるから、結果的にいい提案も集まるようになる。これまで実際に、社員の提案で大幅なコストダウンや能率向上が図られてきた。もちろん素晴らしい提案には、内容に応じて1万円、2万円、3万円といった報奨金を出している。中身を確認しないで500円支払う、という当社独自の提案制度は、手前味噌ながら、なかなか効果を発揮しているといえるだろう。
成果主義やノルマを禁止した。そんな重荷を社員に課すと、無理をしてしまい、かえって契約内容の質が下がってしまう。ノルマを課さず、人の管理もしていないが、そのほうが自由なので社員は喜ぶ。喜んでやる気が出るから、自分で目標をつくって積極的に仕事をしている。
まず社員を感動させ、次にお客様に感動していただく。そして儲かっていない会社の反対をやる。そうした姿勢が未来を切り拓くのだと思う。
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残業をすると、その分の残業代は25%割増にしなければならなくなる。おまけに残業は夜にするものだから、電気代もかかる。企業はコストダウンを徹底しなければいけないのに、残業なんかしてしまったら、かえってコストが高くなる。コストが高くなるということは、それだけ儲からなくなるということ。つまり残業ばかりしているから、日本の企業は儲からないんだな。
給料以外にも、社員に臨時収入を与える独自の仕組みがいろいろある。当社では、作業着を貸与しておらず、仕事中に作業着を着るか着ないかは社員の自由にした。そもそも社員全員がおそろいの作業着を着る意味が、私には分からない。きちんと仕事ができれば、服装などどうでもいいと思っている。もちろん、なかには作業着を着たいという社員もいるから、作業着を買えるだけの現金を全員に支給している。作業着を着るかどうかは自由なのだから、何に使おうと社員の勝手。ポイントは、銀行振込ではなく現金を直接手渡すということだ。妻帯者のほとんどは奥さんに財布を握られているから、小遣いが乏しい。作業着代は個人的な小遣いに回しても構わないから、社員は喜ぶ。喜べば、またさらに頑張って働いてくれる。
かけるべき良いコストがある。売れるものほどコストをかけるべきだ。
社員への給料はいくら払えばいいのか。これも大事な問題だ。業界や地域によって、ある程度の相場はあるのかもしれないが、その相場自体、なかなか把握しにくい。一番大事なのは、社員が、友だちや同級生がもらっている給料の額を聞いたとき、「ウチはまあまあもらえているな」と思えるだけの給料を払うことだ。友人よりも給料が少ないと感じたら、社員は絶対に働かなくなる。もちろん払える額には限度があるが、「まあまあの額」であれば社員は納得する。納得すれば一生懸命に働いてくれる。では、たくさん払えばいいかといえば、それはそれで私は感心しない。仕事の内容に対して、適正な給料の額というものがあるはずだからだ。
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私はかつて、「残業をすると解雇するぞ」と話したことがある。そういうと、幹部社員は、「そこまでやったらかわいそうだ」と反論してきた。そこで私は、「残業をしたいのは君たちの勝手だが、残業をするなら、そのときかかった電気代を、残業した人間が負担してくれ」といった。するとその後はだれも残業しなくなった。
常に考えろ。世間や業界とは反対のことを常に考えろ。
未来工業の会社の門には鍵がない。門衛用の小屋はあるが、門衛は雇っていない。さらに警備会社とも契約していない。つまり、泥棒がとても入りやすい状況だ。そのため、当社を訪問する人の多くが、「無用心だから門衛を雇ったほうがいい」とか、「警備会社と契約したほうがいい」などと忠告してくれる。しかしよく考えてもらいたい。たとえば門衛を雇ったら、ウチは正社員しか採用しないから、年間750万円のコストがかかる。警備会社と契約しても、それなりに経費がかかるのは間違いないだろう。仮に当社に泥棒が入ったとしても、不要な電灯を常に消して、一日中社内が薄暗くなっているような「ケチケチ経営」を徹底している会社だから、金目のものなんて何も置いていない。せいぜい古いパソコンが何台かある程度だ。つまり泥棒に入られるほうが、門衛や警備会社にお金を使うよりも安くすむ。実に単純な算数の計算だ。ついでに門の鍵を購入したら、それだってコストアップにつながってしまう。それなら門の鍵なんて買わなくていい。冗談のように聞こえるかもしれないが、コストダウンとはそのように考えるべきだと私は考えている。
そもそも商売とはお客様を感動させることで成り立つ。お客様を感動させることができれば、品物を買ってもらえる。品物を買ってもらえば、その会社は必ず発展していく。どんな会社でも、お客様第一主義、お客様のニーズに応える、顧客満足など、いろいろな言葉で表現しているが、要は「感動」という一言で言い表わせるのではないだろうか。では、お客様を感動させるのは誰か。これは社員にほかならない。ならば、経営者たるもの、お客様よりも先に社員のほうを感動させなければいけないはずだ。まず社員が自分の会社に感動していなければ、お客様を感動させるような働きができるわけがない。
人を雇えないから残業させるというのは間違い。25%の割増金を払って利益を出せる会社がどのくらいあるのか。
お客様に対しても、「たくさん注文をいただいたときは、割増料金をいただきます」と宣言した。お客様からすると、すぐには理由がお分かりにならない。一度に大量に購入したら、値段が安くなるのが世間の常識になっているからだ。しかし、大量に注文が入っても、製品をつくるスピードを極端に上げることはできない。だから、どうしても残業をする必要が生じる。残業をするということは、その分社員の給料が25%割増になるからコストが上がる。さらに夜勤などしてしまったら手当は5割増になる。だから大量注文は、お客様から割増料金をいただかなければ、コストが合わないのである。ごく単純な計算なのだが、これを理解していない人がほとんどなのに驚かされる。これに対して流通業は、トラックに1000個積んでいたのを10000個に増やしたからといって、ドライバーは1人だからコストはほとんど上がらない。しかし製造業の場合、残業が必要になるほど注文を受けたら、製造にかかるコストは必ず上がる、したがって商品の単価も上がるということを、世の経営者に知ってほしいと思っている。
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