山田昭男
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手厚い福利厚生もそのひとつだけど、ウチの経営陣は絶えず従業員のやる気をどうやって上げるかに知恵を絞っている。たとえば、社内の改善提案コンテスト。生産部門だけでなく、間接部門も参加して知恵を出すように指示した。でも、ただ知恵を絞れといっても出るものじゃない。じゃあ、報奨金を出そうと。どんな些細なアイデアでもいいから、アイデア一件につき、500円出すことにした。それが正式に採用されれば、さらにプラスαで出す。最多提案者は、176件。その人は8万8000円の臨時収入を得たことになる。しかも現金で渡した。最近は、給料が銀行振込みで母ちゃんに財布を握られている父ちゃんが多いから、こっそりあげることにしたんよ。
私は、ホウレンソウなどをしても時間と労力と経費の無駄になるだけだと考えている。「報告などしなくてもいい。判断は任せる」。人の上に立つ者には、それぐらいのことを言える度量を見せてもらいたい。また、その期待に応えられる部下が育っていない会社はもともと成長など望めない。
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未来工業ではホウレンソウを禁じている。現場のことは現場の社員が一番知っており、上司にいちいち相談する必要はない。その代わりに「常に考える」というスローガンを社内のあちらこちらに貼って、社員に考える癖をつけさせ、自分で動ける社員を育てている。手前味噌だが、未来工業ではホウレンソウなどせずとも利益を出し、法人税を納めている。
世の中には、「適任者がいない」「人材が足りない」などと嘆く経営者がいると聞くが、よく周りを見てほしい。目の前にいるじゃないか。猿ならいざ知らず、人間なら自らの立場に応じて仕事ができる。一度そう信じて会社の人事を手掛けてみたらどうだろうか。
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常に考えろ。世間や業界とは反対のことを常に考えろ。
赤字企業は、一体どこに問題があるのだろうか。日本の大半の企業が赤字だとなると、産業界を支配する常識を疑うべきではないか。つまり、多くの企業が善かれと思って導入している制度や習慣は成果につながっていないと考えるのが妥当だ。
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報連相をやめた結果、自発性のある社員ばかりという理想的な組織になった。それが、大手に負けない商品を次々と打ち出せる原動力になっている。
かけるべき良いコストがある。売れるものほどコストをかけるべきだ。
役員の乗用車ももってのほか。ウチは天皇陛下がこられても、ライトバンで迎えにいくよ。乗用車を買う金があれば、そのぶんを従業員に還元したほうがいい。基本的にランニングコストは全部原価にボディブローで跳ね返ってくるから、意外とバカにならない。
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いまはどこの会社の経営者も、従業員の残業を減らすことに躍起になっているけど、残業を減らすなんて簡単なこと。8時間働いたら帰ったらええだけでしょ。従業員にそれ以上の仕事をやらせなければいい。それじゃ、ノルマを達成できないって?じゃあ、残業すればノルマが達成できるのか?そもそも会社経営というのは、従業員が8時間働けば黒字が出るように計画を組んでいるはずでしょ。残業をしないと会社が傾くと考えるのは、経営そのものがおかしいのではないか。
人をルールで縛るからダメになる。縛りを解けばやる気になる。
まず社員を感動させ、次にお客様に感動していただく。そして儲かっていない会社の反対をやる。そうした姿勢が未来を切り拓くのだと思う。
いま派遣労働者の労働条件の改善が社会問題になっているけど、ウチはすべて正社員。そういうと、「いまは転職の時代だから、正社員を雇うのは古い」という人がいる。アホかといいたい。それはマスコミが勝手に煽っているだけやと思うね。最初から会社を辞めようと思って入社する人間が、どれだけいるのか。私には疑問に思えてならない。会社を転々としてステップアップしたいと考えている人間なんて、全労働人口からすれば、ほんのひと握りでしょ。それに、転職した人の大半が、むしろ転職先で労働条件が悪くなっているケースが多い。それを、「いまの若者はすぐ辞めるから」なんていうステレオタイプの悲観論を経営者がもってしまったら、それこそ従業員は、不安で仕事に身が入らないよ。基本的に経営者は、定年まで勤めたいと考えている大多数の真面目で純粋な従業員の思いをすくい取ってやるべきでしょう。
規定時間内で成果を出すには、従業員の仕事上の不満や不安をギリギリまで減らすことに尽きると思う。
未来工業のいろいろな取り組みは、すべて社員の不満を解消するとともに、社員を感動させるためにやっていることばかりだ。感動は人を喜ばせる。喜んだ社員は一生懸命に働いてくれる。会社のためにやってやろうという気持ちになる。そうして頑張った結果が、お客様を感動させ、事業を発展させることにつながるのだ。
給料を払っているから従業員をできるだけこき使え、という発想。そういう発想では、いつまで経っても残業はなくならないよ。
当社では、コンセントの差込口やスイッチボックス、電線を通すパイプなど、電気設備に関するさまざまな部品・器具を製造している。大部分の製品は法律で規格が定められているため、寸法や材質はどの会社がつくっても同じ。要するに、なかなか差別化しにくいものを扱っているといえるだろう。しかし私どもは、商品を開発する際、他社がまだやっておらず、他社の特許も侵害しない工夫を必ず込めるようにしている。当然、新しい工夫を思いつかなかったら、商品として発売することはない。つまり、差別化しにくい分野でありながら、何らかの差別化が実現できた新製品だけを世に送り出しているのである。
経営者は悲観論にとらわれずに、「こうしたらうまくいくんじゃないか」と知恵を絞ったほうが、よっぽど生産的だと考えている。
世の経営者に対して、ひとつ意見しておきたいことがある。一般的に、会社で一番給料が安いのは、入社したての女性社員だろう。その女性社員でも、自動車は自分の給料で購入している。そんなのは当たり前のことだ。「ウチは給料が安いから、社員には自動車を一台ずつ買ってやろう」などと考える社長は一人もいない。ところが、会社で一番高い給料をもらっている社長は、自分の金で自動車を買わない。必ずといっていいほど会社の金を使い、女性社員よりもはるかに高級な自動車を購入する。そして会社の金でガソリンを入れ、会社の金で車検を受けて、その車をプライベートの遊びにも使っている。そんな社長の姿を見た社員が、果たして会社のために頑張って働いてくれるだろうか。私は絶対に一生懸命働いてくれなくなると思う。普通の人間ならバカバカしくなって当然だろう。たかだか4000万円の所得を上げられない、つまり儲かっていない中小企業の社長が、会社の金で高級車を買うのは、すぐにやめるべきだと思う。そうではなく、社長も自分の給料の中から、身の丈に合った自家用車を購入すれば、それだけで社員を感動させることにつながるはずだ。
本当に産業界が日本経済の成長を憂いているのなら、法人税の引き下げを政府に要求するより先に、やるべきことがあると私は考えている。赤字企業を減らすことだ。
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