山田昭男
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経営者が知恵をしぼって従業員が働きやすい環境をつくり、従業員が意に感じて一生懸命に働くという、ごく当たり前の経営のあり方が、残業問題のみならず、全国の7割にものぼる赤字企業の、黒字化への何よりの処方菱になるだろう。うちはべつにユニーク経営をしている会社ではなく、普通の会社なんだよ。
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多くの会社は「いいものを安く」を標傍する。確かに日本の製造業はいいものをつくっている。自動車、カメラ、時計などさまざまな分野で世界トップクラスの製品をつくり、最近中国に抜かれたが、長い間世界第二位の経済大国だった。しかし、いいものを安く売ったら、当然利益は薄くなる。それが現実の数字にも表われている。とにかく日本の企業は儲けることができないんだな。
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報連相をやめた結果、自発性のある社員ばかりという理想的な組織になった。それが、大手に負けない商品を次々と打ち出せる原動力になっている。
社員を鼓舞させるのがノルマの狙いのはずが「給料は少なくていいから適当に働こう」と考える人が出てくるのが落とし穴。だから、うちは年功序列で給料が上がる。「こんなに給料をくれるなら、もっと頑張らなきゃ」と積極的に動いてくれる。
「毎日忙しくて、残業させないと追いつかない」という管理職には、「残業させるだけの仕事が大量にあるなら、新たに1人雇え」といっている。元をとれるはずだから。でも、そういって新たに人を雇った部長はいないね。だいたい、時間内でできるようになる。1人分の仕事量なんて、全員で工夫すればなんとかなるということだよ。
世の中には、「適任者がいない」「人材が足りない」などと嘆く経営者がいると聞くが、よく周りを見てほしい。目の前にいるじゃないか。猿ならいざ知らず、人間なら自らの立場に応じて仕事ができる。一度そう信じて会社の人事を手掛けてみたらどうだろうか。
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未来工業では、昔ながらの年功序列を貫いている。年功序列の下、頑張っても頑張らなくても、給料は同じとなれば、社員は頑張らなくなると思われがちだが、日本人の国民性から言ってそんなことは断じてない。むしろ、成果主義の下、頑張ったのにそれが正当に評価されない方がよほど意欲を引き下げる。
いつも私は、「残業するくらいなら、お客によそで買ってくださいとお断りしなさい」っていっている。お客が逃げてしまうなことはないよ。消費者は短期的にはチラシでみて安い店の卵を買うことはあるにしても、中長期的には、気に入った店に必ず戻ってくるもの。その理由は日本人だから。荒唐無稽な話じゃない。本当だよ。だいいち、残業地獄でくたびれた顔をした社員がいる会社から、永続的にモノを買いたいと思うだろうか。規則正しい生活を送っていつも元気がよい社員が多い会社とつきあったほうが、その会社にとって長期的なメリットになるはずでしょ。
私は、ホウレンソウなどをしても時間と労力と経費の無駄になるだけだと考えている。「報告などしなくてもいい。判断は任せる」。人の上に立つ者には、それぐらいのことを言える度量を見せてもらいたい。また、その期待に応えられる部下が育っていない会社はもともと成長など望めない。
人を雇えないから残業させるというのは間違い。25%の割増金を払って利益を出せる会社がどのくらいあるのか。
手厚い福利厚生もそのひとつだけど、ウチの経営陣は絶えず従業員のやる気をどうやって上げるかに知恵を絞っている。たとえば、社内の改善提案コンテスト。生産部門だけでなく、間接部門も参加して知恵を出すように指示した。でも、ただ知恵を絞れといっても出るものじゃない。じゃあ、報奨金を出そうと。どんな些細なアイデアでもいいから、アイデア一件につき、500円出すことにした。それが正式に採用されれば、さらにプラスαで出す。最多提案者は、176件。その人は8万8000円の臨時収入を得たことになる。しかも現金で渡した。最近は、給料が銀行振込みで母ちゃんに財布を握られている父ちゃんが多いから、こっそりあげることにしたんよ。
赤字企業は、一体どこに問題があるのだろうか。日本の大半の企業が赤字だとなると、産業界を支配する常識を疑うべきではないか。つまり、多くの企業が善かれと思って導入している制度や習慣は成果につながっていないと考えるのが妥当だ。
常に考えろ。世間や業界とは反対のことを常に考えろ。
未来工業ではホウレンソウを禁じている。現場のことは現場の社員が一番知っており、上司にいちいち相談する必要はない。その代わりに「常に考える」というスローガンを社内のあちらこちらに貼って、社員に考える癖をつけさせ、自分で動ける社員を育てている。手前味噌だが、未来工業ではホウレンソウなどせずとも利益を出し、法人税を納めている。
役員の乗用車ももってのほか。ウチは天皇陛下がこられても、ライトバンで迎えにいくよ。乗用車を買う金があれば、そのぶんを従業員に還元したほうがいい。基本的にランニングコストは全部原価にボディブローで跳ね返ってくるから、意外とバカにならない。
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かけるべき良いコストがある。売れるものほどコストをかけるべきだ。
まず社員を感動させ、次にお客様に感動していただく。そして儲かっていない会社の反対をやる。そうした姿勢が未来を切り拓くのだと思う。
いまはどこの会社の経営者も、従業員の残業を減らすことに躍起になっているけど、残業を減らすなんて簡単なこと。8時間働いたら帰ったらええだけでしょ。従業員にそれ以上の仕事をやらせなければいい。それじゃ、ノルマを達成できないって?じゃあ、残業すればノルマが達成できるのか?そもそも会社経営というのは、従業員が8時間働けば黒字が出るように計画を組んでいるはずでしょ。残業をしないと会社が傾くと考えるのは、経営そのものがおかしいのではないか。
規定時間内で成果を出すには、従業員の仕事上の不満や不安をギリギリまで減らすことに尽きると思う。
いま派遣労働者の労働条件の改善が社会問題になっているけど、ウチはすべて正社員。そういうと、「いまは転職の時代だから、正社員を雇うのは古い」という人がいる。アホかといいたい。それはマスコミが勝手に煽っているだけやと思うね。最初から会社を辞めようと思って入社する人間が、どれだけいるのか。私には疑問に思えてならない。会社を転々としてステップアップしたいと考えている人間なんて、全労働人口からすれば、ほんのひと握りでしょ。それに、転職した人の大半が、むしろ転職先で労働条件が悪くなっているケースが多い。それを、「いまの若者はすぐ辞めるから」なんていうステレオタイプの悲観論を経営者がもってしまったら、それこそ従業員は、不安で仕事に身が入らないよ。基本的に経営者は、定年まで勤めたいと考えている大多数の真面目で純粋な従業員の思いをすくい取ってやるべきでしょう。
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