三島由紀夫
1
あらゆる文章は形容詞から古くなっていく。
人間をいちばん残酷にするのは、愛されてゐるといふ意識だよ。
0
青春の特権といえば、一言をもってすれば無知の特権であろう。
ユーモアと冷静さと、男性的勇気とは、いつも車の両輪のやうに相伴ふもので、ユーモアとは理知のもつともなごやかな形式なのであります。
あまりに永い苦悩は人を愚かにする。苦悩によつて愚かにされた人は、もう歓喜を疑ふことができない。
何を守ればいいんだと。ぼくはね、結局文化だと思うんだ。
4
経済学の学説なんぞといふものは、どつちみち如意棒のやうなもので、エイッと声をかけて、耳へ入るだけの小ささに変へてしまへばやすやすと握りつぶせるのである。そもそも唯物論は、「金で買へないものは何もない、どんな形の幸福も金で買へる」といふ資本主義的偏見の私生児なのである。感動すまいとする分析家は、感動以上の誤りを犯す場合がままある。
女といふものは、自分を莫迦だと知る瞬間に、それがわかるくらい自分は利巧な女だといふ循環論法に陥るのですね。
日本人は絶対、民主主義を守るために死なん。ぼくはアメリカ人にも言うんだけど、「日本人は民主主義のために死なないよ」と前から言っている。今後もそうだろうと思う。
愛するということにかけては、女性こそ専門家で、男性は永遠の素人である。
善意も、無心も、十分人を殺すことのできる刃物である。
女の人には、自分で直感的に見た鏡が、いちばん気に入る肖像画なんです。それ以上のものはありませんよ。
傷つきやすい人間ほど、複雑な鎧帷子を身につけるものだ。そして往々この鎧帷子が、自分の肌を傷つけてしまう。
無神論も、徹底すれば徹底するほど、唯一神信仰の裏返しにすぎぬ。無気力も、徹底すれば徹底するほど、情熱の裏返しにすぎぬ。
2
生命尊重のみで、魂は死んでもよいのか。
恋人同士といふものは仕馴れた役者のやうに、予め手順を考へた舞台装置の上で愛し合ふものである。
無秩序が文学に愛されるのは、文学そのものが秩序の化身だからだ。
一分間以上、人間が同じ強さで愛しつづけてゆくことなんか、不可能のやうな気があたしにはするの。愛するといふことは息を止めるやうなことだわ。一分間以上も息を止めてゐてごらんなさい、死んでしまふか、笑ひ出してしまふか、どつちかだわ。
どんなに平和な装ひをしてゐても「世界政策」といふことばには、ヤクザの隠語のやうな、独特の血なまぐささがある。
僕はいはゆる美人を見ると、美しいなんて思つたことはありません。ただ欲望を感じるだけです。不美人のはうが美といふ観念からすれば、純粋に美しいのかもしれません。何故つて、醜い女なら、欲望なしに見ることができますからね。
三島由紀夫のすべての名言