三島由紀夫
1
なぜ大人は酒を飲むのか。大人になると悲しいことに、酒を呑まなくては酔へないからである。子供なら、何も呑まなくても、忽ち遊びに酔つてしまふことができる。
4
忘却の早さと、何事も重大視しない情感の浅さこそ人間の最初の老いの兆しだ。
人生のさかりには、無理と思われるものもすべて叶い、覚束なく見えるものもすべて成るのだよ。
どんな卑俗な犯罪にも、一種の夢想がつきまとつてゐる。
幸福つて、何も感じないことなのよ。幸福つて、もつと鈍感なものよ。幸福な人は、自分以外のことなんか夢にも考へないで生きてゆくんですよ。
2
寡黙な人間は、寡黙な秘密を持つものである。
私は民主主義と暗殺はつきもので、共産主義と粛清はつきものだと思っております。共産主義の粛清のほうが数が多いだけ、始末が悪い。たとえば暗殺が全然なかったら、政治家はどんなに不真面目になるか、殺される心配がなかったら、いくらでも嘘がつける。
6
崇高なものが現代では無力で、滑稽なものにだけ野蛮な力がある。
3
僕はいはゆる美人を見ると、美しいなんて思つたことはありません。ただ欲望を感じるだけです。不美人のはうが美といふ観念からすれば、純粋に美しいのかもしれません。何故つて、醜い女なら、欲望なしに見ることができますからね。
どんなに平和な装ひをしてゐても「世界政策」といふことばには、ヤクザの隠語のやうな、独特の血なまぐささがある。
一分間以上、人間が同じ強さで愛しつづけてゆくことなんか、不可能のやうな気があたしにはするの。愛するといふことは息を止めるやうなことだわ。一分間以上も息を止めてゐてごらんなさい、死んでしまふか、笑ひ出してしまふか、どつちかだわ。
0
恋人同士といふものは仕馴れた役者のやうに、予め手順を考へた舞台装置の上で愛し合ふものである。
自分を理解しない人間を寄せつけないのは、芸術家として正しい態度である。芸術家は政治家じゃないのだから。
無神論も、徹底すれば徹底するほど、唯一神信仰の裏返しにすぎぬ。無気力も、徹底すれば徹底するほど、情熱の裏返しにすぎぬ。
三千人と恋愛をした人が、一人と恋愛をした人に比べて、より多くについて知っているとはいえないのが、人生の面白味です。
女の人には、自分で直感的に見た鏡が、いちばん気に入る肖像画なんです。それ以上のものはありませんよ。
善意も、無心も、十分人を殺すことのできる刃物である。
私は、言論と日本刀というものは同じもので、何千万人相手にしても、俺一人だというのが言論だと思うのです。一人の人間を大勢で寄ってたかってぶち壊すのは、言論ではなくて、そういうものを暴力という。つまり一人の日本刀の言論だ。
日本人は絶対、民主主義を守るために死なん。ぼくはアメリカ人にも言うんだけど、「日本人は民主主義のために死なないよ」と前から言っている。今後もそうだろうと思う。
女といふものは、自分を莫迦だと知る瞬間に、それがわかるくらい自分は利巧な女だといふ循環論法に陥るのですね。
三島由紀夫のすべての名言