三島由紀夫
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戦争が道徳を失はせたといふのは嘘だ。道徳はいつどこにでもころがつてゐる。しかし運動をするものに運動神経が必要とされるやうに、道徳的な神経がなくては道徳はつかまらない。戦争が失はせたのは道徳的神経だ。この神経なしには人は道徳的な行為をすることができぬ。従つてまた真の意味の不徳に到達することもできぬ筈だつた。
男性は本質を愛し、女性は習慣を愛する。
人生とは何だ?人生とは失語症だ。世界とは何だ?世界とは失語症だ。歴史とは何だ?歴史とは失語症だ。芸術とは?恋愛とは?政治とは?何でもかんでも失語症だ。
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男性操縦の最高の秘訣は、男のセンチメンタリズムをギュッとにぎることだ。
われわれは自分の弱さをいやがる気持ちから人の長所をみとめる。
何かにつけて青春が未来を喋々するのは、ただ単に彼らがまだ未来をわがものにしていないからにすぎない。
初恋に勝って人生に失敗するのはよくある例で、初恋は破れるほうがいいという説もある。
2
国家がなくなって世界政府ができるなんという夢は、非常に情けない、哀れな夢なんです。…資本主義国家も国家が管理している部分が非常に大きくなっておりますから、実際の国家の時代という点では、国家の管理機能はむしろ史上最高ぐらいまで達しているのではないか。
3
私は、言論と日本刀というものは同じもので、何千万人相手にしても、俺一人だというのが言論だと思うのです。一人の人間を大勢で寄ってたかってぶち壊すのは、言論ではなくて、そういうものを暴力という。つまり一人の日本刀の言論だ。
不安は奇体に人の顔つきを若々しくする。
生まれて来て何を最初に教わるって、それは「諦める」ことよ。
どんな女にも、苦悩に対する共感の趣味があるものだが、それは苦悩といふものが本来男性的な能力だからである。
感傷といふものが女性的な特質のやうに考へられてゐるのは明らかに誤解である。感傷的といふことは男性的といふことなのだ。
何のために生きてゐるかわからないから生きてゐられるんだわ。
歌舞伎役者の顔こそ偉大でなければならない。
不安こそ、われわれが若さからぬすみうるこよない宝だ。
恋愛とは、勿論、仏蘭西の詩人が言つたやうに一つの拷問である。どちらがより多く相手を苦しめることができるか試してみませう、とメリメエがその女友達へ出した手紙のなかで書いてゐる。
女が一等惚れる羽目になるのは、自分に一等苦手な男相手でございますね。
若さが幸福を求めるなどといふのは衰退である。
たいてい勇気ある行動というものは、別の在るものへの怖れから来ているもので、全然恐怖心のない人には、勇気の生まれる余地がなくて、そういう人はただ無茶をやってのけるだけの話です。
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