島崎藤村
1
一生に秘訣とはこの通り簡単なものであった。「隠せ」――戒はこの一語に尽きた。
4
人力の限りあるを知るのが自信だ。
2
独立した田舎は、その反対に単独の発達を遂げるには、それぞれの歴史、農産業の発達、貨物の集散、その他政治上、経済上の事情などに依ってそれぞれ人物も必要であるし、経営も必要であるし、それからなお、独立した地方の精神と云うものがなくてはならぬ。
待ち受けた夜明けは、何もそう遠いところから白んで来るでもなく、自分の直ぐ足許から開けて行きそうに見えた。
何卒えて置いて下さい。
0
ずっと年をとってからの日のために、雪が降ったから茶でも飲みにお出で下さいと言えるような、そういう老後の友達を三、四人つくって置きたい。
3
文学界。
仮令許して下さい。
明日は、明日はと言って見たところで、そんな明日はいつまで待っても来やしない。今日はまた、またたく間に通り過ぎる。過去こそ真だ。
人間も忿怒を制えないうちは、本当に自然を友とすることはできない。
若菜集。
同じ一つの時代にもひき潮の時期があり、さし潮の時期がある。四季が循環するように、冷熱は一代の人の心を従来してやまない。
文章を添削することは心を添削することだ。その人の心が添削されない限りは、その人の文章が添削されようがない。
破壊。
昨日またかくてありけり今日もまたかくありなむこの命なにをあくせく明日をのみ思いわずろう。
旅じゃ有りませんか、誰だって人間の生涯は。
新生。
かつては「平和」のために軍備が拡張せらぬばならぬと言われた。いまは「平和」のために軍備が縮小せらぬばならぬと言われる。「平和」がそれを聞いたら何と答えるだろう。
皆一緒に学校を出た時分──あの頃は、何か面白そうなことが先の方でわれわれを待っているような気がした。こうしているのが、これが君、人生かね。
夜明け前。
島崎藤村のすべての名言