島崎藤村
2
病のある身ほど、人の情の真と偽とを烈しく感ずるものは無い。
木曽路はすべて山の中である。
1
破壊。
0
愛の舞台に上って馬鹿らしい役割を演じるのは、いつでも男だ。
3
誰か旧き生涯に安んぜむとするものぞ。おのがじし新しきを開かんと思へるぞ、若き人々のつとめなる。
新しきうたびとの群の多くは、たゞ穆実なる青年なりき。その芸術は幼稚なりき、不完全なりき、されどまた偽りも飾りもなかりき。青春のいのちはかれらの口唇にあふれ、感激の涙はかれらの頬をつたひしなり。
4
新生。
若き聖ののたまはく道行き急ぐ君ならば迷ひの歌をきくなかれ。
うらわかき想像は長き眠りより覚めて、民俗の言葉を飾れリ。伝説はふたゝびよみがへりぬ。自然はふたゝび新しき色を帯びぬ。明光はまのあたりなる生と死とを照せり、過去の壮大と衰頽とを照らせり。
人生は大いなる戦場である。
夜明け前。
人が四十三歳にもなれば、この世に経験することの多くがあこがれることと失望することとで満たされているのを知らないものもまれである。
田山君、死んでゆく気持ちはどうだね。
遂に、新しき詩歌の時は来たりぬ。
わたし達の急務は、ただただ眼前の太陽を追ひかけることではなくて、自分等の内に高く太陽をかかげることだ。
6
親はもとより大切である。しかし自分の道を見出すということは、なお大切だ。人は各自自分の道を見出すべきだ。
一生に秘訣とはこの通り簡単なものであった。「隠せ」――戒はこの一語に尽きた。
ああ、自分のようなものでも、どうかして生きたい。
涼しい風が吹いて来る。
何卒えて置いて下さい。
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