宮本亜門
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「人生二度なし」と思うと、今も悩んでいることが小さく思えてきてね。だから、行動し楽しむ。外に出て太陽を浴びる。それが今の僕の原動力なんです。
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実はぼくはたくさん失敗をしました。演出家らしくとか、この仕事だからと力んだり、リーダーとして頑張ったり、自分らしくないのに、無理に偉ぶったり。でも、全てが失敗でした。そんなことをしても、相手も嫌な気分になるし、なにより自分に無理して嘘をついているような自分が、たまらなく嫌になったのです。これでは楽しめるものも楽しめません。
母は長いこと肝硬変を患っていたということもあって、いつ死ぬか分からない状態が続いていました。それでも負けずに、仕事を続け、一日一日を大切に、何事も楽しくやっている母を見てぼくは「かっこいい!生きてるって凄い!」と感じたのです。体が丈夫じゃなくても、人に勇気を与えたり、元気をつけたりすることができるんだと。仕事を、存分に楽しく生きるための道具にしている母を見て、感動したのです。
前例がないからこそ、自分の場所がある。前例があるってことは、話題にならないってことです。
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「仕事っていうのはこういうものだ」と言われる定義以上に、自分の情熱やワクワクが伝わっていけば、結果的に人だってお金だって自然に付いてくるってことです。ぼくの言っていることは理想論に聞こえるかもしれないけど、そう思い続けて、今も楽しく仕事をさせてもらっている。だから、そう的外れではないと思いますよ。
「仕事=生計のため定職に就いて働く」と決めつけ、そこに縛られ、苦しむか。それとも、そう決めつけずに、いかに楽しく働くか。そんな視点の違いが、その人の働くことへの意欲を無くすか、湧かせるかの境目だと思うのです。
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自分が行動し始めれば、いろんなことが動き出す。当たり前のように聞こえるけど、最も大切な原理です。
ぼくはこれまでに受けたどのインタビューでも「死ぬまで演劇をやりたい」と言ったことはありませんし、むしろ大声で「いつ転職してもいい」と、言っています。
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サービスして相手を喜ばせたいとか、もっといい気持ちにさせたい、笑わせたい、また変わったアイデアで驚かせたいとか、そういう風に「~でなければならない」ではなく、自分の人生を楽しくしたいからであれば、もっと働きたくなる。
まずはあれこれ手を出すより、ひとつのしっかりとした幹をつくることを大切にした方がいい。
定職につくとか、一つにやり方を絞ったり、同じことを繰り返すことに全く興味が湧かないのです。
興味が向いたら、それがどんな小さい喫茶店でもいいし、何でも自分が好きにできるものだったらぜひ、やりたい。
ひとつに絞ってまず自分のキャラクターを、特色を出す。すると自信がつき、新たな展開が広がります。
自分にだけは、嘘はつけないものです。
20代のとき、こんな演出家になりたいって人に言うと「夢が大きくっていいね。でもなれないよ」って、みんなが言った。それも前例がないからだと。だけど、よく考えたら、前例がないからこそ、自分の居場所があったんだよね。
「アジア三部作」が酷評されたとき、本気で演出の仕事を辞めようと思った。そんな様子を見て事務所の社長が、「1年でもいいから長期の休暇を取ればいい」と言ってくれて。沖縄に飛んだんです。とくに理由もなく。層心理に導かれたのかもしれません。沖縄は原色の自然だけでなく、過去に苦い戦争の歴史もある。市場で野菜や魚を売っているおばあたちは、過去に地上戦で家族を失ったりしているのに、何のてらいもなく毎朝大笑いをしている。そのあまりにも美しい笑顔。救われましたよ。「僕の悩みなんか、まだまだ小さい」と。沖縄で3~4か月過ごしたあと、それまで怖くて遠ざけていたミュージカルのCDをひさしぶりに聴いてみたら、涙が出てきたんです。「ああ、やっぱり僕はこれが好きなんだ。これがやりたいんだ」と。それで、いまもこうやって演出家として生きています。
人はそれぞれカラーが違う。
1対4とかだったら落ち込むと思うけど2対3ですからね。満足とまではいかないけど、2対3という結果をバネにしてさらに向上を目指したいと思います。
バンコクに到着した日の夜、レストランで食事を終え、タクシーでホテルへ向かっていたら、細い道をすさまじいスピードで走るんですよ。「おい、大丈夫か?」と思っていたら、横から追い越そうとする暴走車にぶつかった。後部座席に座っていたのに、僕の身体はフロントガラスを頭から突き破って、10メートルほど吹っ飛ばされていました。意識はなく、頭がパックリ割れ、頭部や顔を50針以上縫った、とあとから聞かされ、自分でもよく生きていたなと。それ以来、「自分は縁があって生かされているんだな……」と強烈に感じます。
演出家になるという社会での肩書きばかりに思いがいって、具体的に「演出を通じて何をやりたいのか」と考えたことがなかった。それから、自分は人に何を伝えたいのか、何を表現したいのか、を考えるようになりました。
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