松岡修造
0
自分がメンタル的に強いなんて思ったことはありません。だからこそ、メンタルトレーニングには懸命でした。
真剣だからこそ、ぶつかる壁がある。
1
僕自身、いまでもネガティブな心の声が聞こえてきます。毎日です。「生放送で失敗してしまうんじゃないか」とか「講演会で上手く話せないかも」などいろいろ不安な言葉が湧いてきます。そこで心に「ストップ」と言います。一番つまらないのは、プレッシャーや迷いによって自分の、ベストを尽くせないこと。悔いが残ります。
挫折や崖っぷちは自分を変え、成長させてくれるチャンス。トップアスリートで挫折を経験していない人はいません。
負の想像力の暴走を食い止めるには、怒りを爆発させるスイッチを押すまでの距離をできるだけ遠くしておくことです。そのためには、「自分はこう思うけど、別の見方もあるんじゃないか」とちょっと違う角度からものごとを見る力が必要だと思います。
日記の大きな効用は、自分と向き合う時間を毎日持てる点です。日記をつける前の僕は、夜になると仲間と騒いでいるか、すぐに寝てしまうかで、自分を見つめるようなことは何もしていませんでした。日記をつけ始めてからは、その日の自分の言動を振り返ることが、良い刺激になりました。
タイガー・ウッズ選手と、幸運にもあるゴルフ大会で一緒にラウンドしたとき、彼がプレー中、常に自分に対する声かけをしていたのを見て、驚いたことがあります。いい球を打てたときは、「ナイスショット!」と堂々と自分を褒め、ミスショットをしてしまったときは、「ネクストタイム!」と自分を明るく励ます。こうした言語化がウッズ選手の強さを支える秘密のひとつなのだと思います。
僕は「真剣」という言葉がすごく好きですが「深刻」は嫌いです。似てるけど、違うんですね。最初に膝のケガをしたとき、リハビリに苦しんで長い間、勝てませんでした。いま振り返れば、当時の僕は深刻だっただけですね。だから、頭には「Why」だらけ……。なぜだ、どうしてだ、なぜ膝が痛い?なぜ一所懸命やっているのに勝てない。そんな思いばかりです。でも、あるとき、テニスをやりたいけどできない少女と出会って、僕の頭は切り替わった。真剣になったんです。頭に湧いてくるのは「How」。どうすれば、この膝と付き合ってプレーできるのか。真剣に取り組んだら、段々と試合でも勝てるようになりました。
膝のケガはもう完治はしない。なら、そのケガとどう付き合っていくか、膝をカバーするためにどこを鍛えればいいか。そう考えるようにしたことで、少しずつ悩みから抜け出すことができました。それでも立ち直るのに一年はかかりましたね。
僕が特別頑張っているとは思わないです。自分は大したことないって思ってる人だって、本当はすごく頑張ってるはずなんですから。
練習というのは、苦手意識を慣れで克服することです。泳ぐ練習をするうちに、水が怖くなくなるのと同じです。だから、最初から「自分には無理」という発想でものごとを見ず、ポジティブに考えていくのが僕のやり方です。
仕事には良いときもあれば悪いときもありますが、自分の足元をしっかりと見据えていれば、そこからどういう方向に進んでいけばいいかがわかり、具体的な進み方も、ちゃんと考えることができるはずです。
日記を3日坊主で終わらせないための3つのコツ。
失敗はダメじゃないんだ。失敗してこそ自分が見えてくるんだ。
取材で、「この人は本当にメンタルが強いな」と感じたのはごく数人です。多くの人はむしろ、何度も失敗して、その失敗から立ち直る中から心の強さを手に入れていくように思います。
お醤油ベースのお吸い物にあんこ。非常識の中に常識あり。
2
現役時代、悩んだときや迷ったときには、とにかく日記を読み返していました。とくに大きなけがをしたときは、いくら一所懸命やっても勝てず、先が見えない状態で、「もうテニスをやめるしかないのか」と考えたこともありましたが、「以前はこういうことをして何日くらいで乗り切った。だからきっと今回も大丈夫だ」と自分を励まし、救われたことが何度もありました。日記を書いて読み返すことは、メンタルのメンテナンスとして大変役立つのです。
僕は、現役時代の自分に対しては、自分を褒めたいとは思わない。ただ唯一、自分を褒められることがあるとすれば、ジュニアの育成システムを作ってきたことです。それも自分で独自に作ったんじゃなくて、テニス協会のなかに作り上げた。自分で言うのもなんですけど、これは画期的なことだったんです。それには人を動かさなきゃいけなかった。どうすれば動かすことができるのか?僕なりに試行錯誤を繰り返しながら、作り上げていったんです。
僕は今、「修造チャレンジ」という形で、テニスプレーヤーを目指しているトップジュニア選手たちを指導しているのですが、彼らに対しては「今日は調子が悪いとは絶対に言うな」と教えています。たとえば今日はフォアハンドがうまくいかないとしたら、それはラケットへの当たり具合がちょっとズレているなど、必ず要因があるはずです。「調子が悪い」の一言を言い訳にしたら、その要因は絶対に見つからず、さらにうまくいかなくなるだけ。あるいは、今日はフォアハンドがうまくいかないようなら、バックハンドやボレーなど、他の部分でカバーすればいいのですが、そういう思考も出てこない。「調子が悪い」という一言ですべて片づけてしまうと、思考停止に陥ってしまうのです。
チャンスはいつやってくるか分からないからこそ、目の前のドアが開くまで叩き続け、失敗や苦しい経験をし続けるしかない。
松岡修造のすべての名言