松岡修造
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僕は「真剣」という言葉がすごく好きですが「深刻」は嫌いです。似てるけど、違うんですね。最初に膝のケガをしたとき、リハビリに苦しんで長い間、勝てませんでした。いま振り返れば、当時の僕は深刻だっただけですね。だから、頭には「Why」だらけ……。なぜだ、どうしてだ、なぜ膝が痛い?なぜ一所懸命やっているのに勝てない。そんな思いばかりです。でも、あるとき、テニスをやりたいけどできない少女と出会って、僕の頭は切り替わった。真剣になったんです。頭に湧いてくるのは「How」。どうすれば、この膝と付き合ってプレーできるのか。真剣に取り組んだら、段々と試合でも勝てるようになりました。
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高校2年生のとき日記を始めて、「これほど面白いものはない!」と感じました。本音でものを言ったり書いたりする機会が少なくなっている世の中だからこそ、たった2、3行でも自分の思いを素直にぶつけられる世界が必要な気がします。
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生まれながらに自信満々の人などいません。自信を持ちたいから頑張れる。
取材で、「この人は本当にメンタルが強いな」と感じたのはごく数人です。多くの人はむしろ、何度も失敗して、その失敗から立ち直る中から心の強さを手に入れていくように思います。
ビジネスマンが残業をせざるを得ない状況にあることはわかりますが、過労から心身を病んでしまっては元も子もありません。健康に気を配って無理をせず、勇気をもって休むことが、長い目で見れば「働く人間」としてのパフォーマンスを高めます。
テレビで伝えるときは、ありきたりの解説ではなく、僕にしか伝えられない言葉で伝える努力をしています。
お醤油ベースのお吸い物にあんこ。非常識の中に常識あり。
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僕は今、「修造チャレンジ」という形で、テニスプレーヤーを目指しているトップジュニア選手たちを指導しているのですが、彼らに対しては「今日は調子が悪いとは絶対に言うな」と教えています。たとえば今日はフォアハンドがうまくいかないとしたら、それはラケットへの当たり具合がちょっとズレているなど、必ず要因があるはずです。「調子が悪い」の一言を言い訳にしたら、その要因は絶対に見つからず、さらにうまくいかなくなるだけ。あるいは、今日はフォアハンドがうまくいかないようなら、バックハンドやボレーなど、他の部分でカバーすればいいのですが、そういう思考も出てこない。「調子が悪い」という一言ですべて片づけてしまうと、思考停止に陥ってしまうのです。
自分にとって必要な10か条。
僕は、現役時代の自分に対しては、自分を褒めたいとは思わない。ただ唯一、自分を褒められることがあるとすれば、ジュニアの育成システムを作ってきたことです。それも自分で独自に作ったんじゃなくて、テニス協会のなかに作り上げた。自分で言うのもなんですけど、これは画期的なことだったんです。それには人を動かさなきゃいけなかった。どうすれば動かすことができるのか?僕なりに試行錯誤を繰り返しながら、作り上げていったんです。
苦しいか?修造!笑え!
誰でも体調を崩すと「やっぱり自分は飛ばし過ぎだった」と反省しますが、調子がよいときはなかなかそこに考えが及びません。「安全と思うときほど危険なのでは?」と疑い、自分の心と体と対話して状態をチェックし、それに応じて休養をとるように心がけましょう。
自分がメンタル的に強いなんて思ったことはありません。だからこそ、メンタルトレーニングには懸命でした。
試合で負けて不安で押しつぶされそうになったとき、1か月先までの予定を立てました。そうすれば、とにかくそこまでは目的意識をキープできたからです。みなさんも行き詰ったときには少し先まで視線を伸ばしてみてください。その間に、弱気の虫を封じることも可能ではないかと思います。
タイガー・ウッズ選手と、幸運にもあるゴルフ大会で一緒にラウンドしたとき、彼がプレー中、常に自分に対する声かけをしていたのを見て、驚いたことがあります。いい球を打てたときは、「ナイスショット!」と堂々と自分を褒め、ミスショットをしてしまったときは、「ネクストタイム!」と自分を明るく励ます。こうした言語化がウッズ選手の強さを支える秘密のひとつなのだと思います。
挫折や崖っぷちは自分を変え、成長させてくれるチャンス。トップアスリートで挫折を経験していない人はいません。
プロになったばかりのころ、僕はボレーが下手でした。でも、とにかく自分で褒めようと思い、ボレーを決めたときは「ナイスボレー、修造!」と叫んでいました。観客は笑っていましたが、人から笑われようが、「アホか」と思われようが、自分にプラスになることなので気にしませんでした。自分で褒めていくうちに、「俺はボレーが上手いんじゃないかな」と自信のようなものが出てきました。やがて成功率が失敗率を上回り、ボレーが上手になりました。
僕がレポーターをやっているテレビ番組「くいしん坊!万才」で、こんなことがありました。ロケでホタテの殻むきをする漁師さんに、毎日毎日同じ仕事をするのは大変ではないか、と聞いたのです。それに対して漁師さんは、「ホタテひとつひとつが違うからむき方も当然変わる。自分の体調だって毎日同じではない。体調によって、今日は腕の力を抜いてやろうとか、日々の変化に合わせて工夫している。単調な作業に見えて実はぜんぜんそんなことはない」と言い、僕も聞いて、なるほど!と思ったのです。つねに前よりも良い結果を残したいと考え、より良いパフォーマンスを心掛けて工夫をすれば、どんな仕事でもマンネリにはならないと思います。
ケガのとらえ方というのは、その人の性格というのもあると思うんです。たとえば5痛いものを、10痛いととらえる人と、1痛いととらえる人がいる。ナダルとか、いまのトップ選手というのは、痛みに強い。「痛いのは当たり前」といった感覚でプレーしています。でも、僕なんかはどうしても痛みを大げさにとらえてしまうことが多かった。僕はケガに対するとらえ方がヘタで、ケガでいろんな失敗をしてきただけに、テニスの指導の現場では、この経験は「宝物」なんです。経験に即して細かく指導できますから。根性論には絶対ならない。たとえば、リハビリというとケガをしたあとというイメージがありますが、ケガをしないためのリハビリというのもある。こういうトレーニングを積んでおくと、ケガを防げるという。
「WHY?」よりも「HOW?」に意識を傾けてみてください。「なぜ私ばかりこんな目に遭うのか」ではなく、「どうすればこの苦境を乗り越えられるのか」と考えるのです。HOWを唱え続け、自分ではコントロールできない事態を乗り越えた経験は、成長と強い心をもたらすはずです。
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