松井道夫
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プロであればあるほど、「相場はこう動きます」なんて言わない。「絶対」がないことをよく知っているからです。
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そもそも経営とは会社の進む方向と、時代の潮流とのギャップを埋める作業だと思います。その上で社長の仕事は、社長室で座禅を組んで考えることです。つまり、世の中がどういうふうに変わるのか、何が本質なのか、とことん考え抜くことです。本当はいくら考えたって真実はわからないんです。でも、考えなくちゃいけない。社長が考えて世の中の流れを判断して、それを前提にビジネスをやるんです。
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デフレとインフレの時代では、商売のやり方は明らかに違います。日本は20年間デフレで来たので、みんなそういう発想が身についてしまっている。でも、ずっとデフレであるはずがなく、いつかインフレが来ます。すると180度やり方が変わる。
先代は1人で経営をして、1人で決めてきた人でした。私にも「あなたの責任でおやんなさい」ですから、社長というのは自分で決断して行動するものだと思っています。多数決で決める、相談して決めるというのでは、リーダーではない。
自らも含めて成功という商売の醍醐味を会社の仲間たち全員に味わわせてやれるのがリーダーの生き甲斐。じゃなかったら社長なんてアホ臭くてやってられません。
組織の中で意思決定を行う際、視点を変えれば様々な「解答」が出てくる訳で、どれが正しいかを延々と議論したところで水掛け論になります。最終的にリーダーが決断して方針を決めれば済む話です。リーダーが判断を誤ることも十分あり得ますが、とにかく動かないことには何も始まりません。
当初の路線を継続しようが、しまいが、どっちみち叩かれる。どうせ叩かれるんだったら、自分が信じた道を行った方がいい。
利益は明らかに先細っていますが、それを環境のせいになんかにしたくありません。智恵が不足しているからだと思っています。
デフレの今はとにかく安いものがいいという考えでビジネスモデルをつくっているところがたくさんあるし、それはそれで儲かっていても、インフレに切り替わったとき、それらは一瞬にしてつぶれます。時代が変わるというのは、天地がひつくり返ることですが、同時に会社もひつくり返るのは、できれば御免こうむりたい。だから、インフレ時代にいったいどうなるのかを考えて、いまのうちから準備しておくのが商売ですよね。
競争できない弱者は救わないといけませんが、今は競争できるはずの敗者が弱者のフリをして「弱者を救うべきだ」と言っているように思えてなりません。敗者が「強者はけしからん。俺たちを救え」と言ったら健全な競争がなくなりますよ。
僕は社員に対して「頑張るな」と言っているんです。「頑張りました、努力しましたで結果をこれだけ出しました」というのを僕はあんまり評価しません。頑張ることは大事なことですよ。でもね、頑張ってできることというのは、1割向上するのだって至難の業、2割なんてほとんど不可能です。世の中が変わるというのはどういうことかといいますと、「仕組みを変えたらこうなっちゃいました」「2倍、5倍になっちゃいました」ですよ。この仕組を考えることが仕事だぞと。「頑張らなくてもいい方法をみんな考えろよ」、それが仕事だぞといっているわけです。
今後、会社の中でビジネスを担っていくには、自由な発想ができる人間じゃないとだめです。そうはいっても、松井証券でいえば、社員に「私の決断に従え」と言っておきながら、彼らに「自由な発想をしろ」と言うのは矛盾のように思われるでしょう。でも、これはいわば二律背反の関係です。私が決めるんじゃない。私が決めるのは方向性だけ。それを理解したうえで、あとは社員が自分たちでやる。そのためには今の常識を一回捨て、自由な発想をしてくれと言うことなのです。
おじいちゃん、おばあちゃんの頭になれよ。
だいたい、資本主義、市場経済の世の中で、国境を気にすること自体が間違っている。
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顧客中心主義でビジネスをやったら必ず成功するんですよ。
私は日本がもう終わりだとは思っていません。一番のカギを握るのは若者ですよ。これまでの歴史の中で年寄りが歴史を変えたなんて話、聞いたことがない。世の中に変化をもたらすのはいつの時代も若者です。
できない理由を一所懸命探して、できない、できるはずがないと自分に言い聞かせる人とは、私は一緒に仕事はしたくありません。「できるはずだ」と一緒になって悩み苦しむ人と仕事がしたい。どこかに乗り越えられる解があるのです。つじつまを合わせて、他人がやっているのと同じようなことをきれいに整理してやりましたと言われても、「そんなのつまらないよ」と言うしかありません。
インターネット株取引を開始したことがイノベーションだったとは思っていません。誰でも思いつきますから。外交営業をやめたことの方が遥かに画期的だったと思います。顧客はそれを欲していないと気が付いただけに過ぎません。今から思うと当たり前のことなんですが、実行するのは大変でした。
いまは革命期の真っ最中です。世の中の風景は、大きく変化しています。これに気付いている人と、気付いていない人とでは天と地ほどの差が出てきます。たしかに、過去の延長線上に歴史が続いているのは事実です。しかし、必ず100年か200年に一回、世の中の様相がガラッと変わるエポック・メーキングな時代があるんですね。いま私たちが立っているのは、まさにその地点です。
コーポレート・ガバナンスというのは、リーダーに強い権限を与える一方、失敗した場合にはそのリーダーをパージする仕組みです。「あいつの言っていることを信じてやらせてみよう」、「そのかわり、判断ミスが明らかとなった場合には辞めさせる」という2つの仕組みが揃わなければ、リーダーの思い込みに組織を委ねることなどできません。
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