松井道夫
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決断する立場に置かれて初めて、人は物事を苦しんで考えるのです。非常に平凡な言い方をすると、苦しんだことのない人間は、やっぱりダメです。
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本を読めば何でも書いてあります。でも、それを真似することは、自分を見失うということです。だから真似をしてはいけない。他人がしたことをそのままやっても、それは自分自身が思っていることではないから、それで成功したところで何の満足感も得られません。やはり自分のオリジナルのものでなければダメ。絵だって、人様の描いた絵をどんなに精緻に模倣しても、それは自分のものではないんです。
実質もう四半世紀も社長をやっていますが、まだまだひよっ子だなと思っています。成功など数えるほどしかなく、無数の失敗をしていますからね。
国際化とグローバル化は、似て非なるものだ。国際化は内と外を意識した概念であるが、グローバル化は、そんなことを意識せずに、国境などまたいで、自らの意思に基づいて、自由に舞台を選択していく行動様式だ。そこで繰り広げられるのは、良くも悪くも、ゲームに勝つために自分たちに有利なルールを作り、その舞台にいかに相手を引きずり込むかの駆け引きでもある。それは極めて弱肉強食的な世界だ。このようなドロドロした世界を「国際化」と同じ感覚で論じている時点で、有為な、特に次代を担う若い人材はどんどん国外に逃げていってしまうだろう。
朝はなかなか頭が働かないため、出勤前に水泳をして頭を覚まし、思考のスイッチをオンにしています。20~30分かけて1kmをクロールで泳ぐのですが、最初は慣らし運転。体が慣れてきた15分後くらいから、泳ぐというより、体が勝手に動いて、ただ水に浮遊しているようなスイマーズハイの状態に入ります。脳がリラックスし、研ぎ澄まされていく感覚が得られます。この時、自分から積極的に何かを考えたりはしない。いろいろなことが頭に浮かんだりはしますが、基本的には「脳の休息時間」になっています。
会社経営では利益ももちろん大事ですが、もっと大事なことがあります。「お天道様に恥じるようなことをしては絶対にダメだよ、お天道様はいつでも見ているよ」ということです。私は来年還暦を迎える、まだ経営者の端くれにすぎませんが、日本人なら誰しもが幼いころから教えられてきた、このことがすべてなのかなと思っています。
あの決定は間違っていた。ごめんなさい。「なし」にする。
「百聞は一見にしかず」の通り、情報化が進めば進むほどアナログによる情報の価値が増す。
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胡坐をかいていたらいずれ失格の烙印を押されてしまう。
利益を上げて経営状態が良くなってくると「うちの会社はいま何百人の社員がいる。将来は、何千人にするんだ」といって、買収を繰り返し、組織を拡大していく経営者がいます。つくづく疑問に思います。みんな規模を拡大しようとする。足し算の発想をするのです。しかし僕は、もう徹底的に引き算の発想をしようと思って、有無を言わさず本社を移転しました。余計なものを排除する。つまり、規模を捨てたんです。徹底的な引き算の発想を、社員に示したつもりです。
私は風呂が好きで、よく湯船の中で何時間も考えごとをします。風呂は、ただ入っていればいい。みずから行動しなくていいから、非常にリラックスするんです。そうやって身体も何もかもきわめて受身なシチュエーションに置くと、逆に脳は能動的になる。こじつけですが。会社の椅子に座って考えこんでも、いい発想が浮かぶとは限りません。考える場所や時間は自分で選択できます。人にはそれぞれ一番考えやすい場所があるでしょう。便所で考えるといいアイデアが浮かぶとか。社長の仕事は考えることですから、その環境は自分でつくればいいんです。
あるテーマについて考え続け、考えがある程度まとまってきたら、500~600字のエッセイにまとめて、自分宛にメールを送っています。書く前に「このことについて前にも何か書いたな」と思い出したら、そのメールを探して読み返す。メーラーの「返信」ボタンを押して、過去の文章を引用した状態にし、「この時考えたことは正しかった」あるいは「全然考え違いをしていた」というふうに、新たな考えを前後に書き足す。それをまた、自分にメールで送ります。こうすることで思考を深めていくことができる。毎日必ず書くのではなく、ふと思い立ったら書くという感じで、肩肘張らず自然体で取り組んでいます。
顧客第一主義という言葉があります。じつは、これは顧客を「集団」としてとらえた企業中心の考え方です。これでビジネスをやっていてはだめです。顧客一人一人を中心に置くことが重要なんです。お客さんは我々にお金を払ってくれる側。我々はお金をいただく側。そういう立場ですよ。我々商人というのは、選ばれるか選ばれないかという存在にすぎない。
「たわ言」から、すべてが始まるんです。それをあえて唱えて、その実現に向けて悩み苦しむことが本来のビジネスなんです。
日本の空の下にこれだけボロ儲けできる業界があることを知って、正直言うと、極めて不愉快に感じた。
一番大切なのは「個」だ。主体的な「個」である。感性や美意識をベースにして仕事をしなくてはいけない。主体的に生きる人間だけが社会からスポイルされない。従属した「個」に明日はない。
特に重視しているのは、歴史書や哲学書です。書かれていることを覚えるのが目的ではありません。歴史的事実から「人間の本質」や「社会のそもそもの成り立ち」を読み取り、現代に置き換えて考えるのです。新しい組織のあり方について構想を練る有力なヒントになります。
執念がないと、可能性を信じないで困難ばかり考えるようになります。できない理由を一所懸命探す。挙句の果てに何をするかというと、必ず他人のせいにするんです。誰だって、自分を失って後ろ向きになんてなりたくないですよね。まあ楽ですけど。
イノベーションというものは始めてすぐに成功するという類のものではない。インターネット取引だって、始めてから2~3年は大したことはなかった。
よく読んでいるのは、世界情勢を分析する「オックスフォード・アナリティカ」。英国企業が発行している英文リポートです。このリポートは、世界中の政治家や経済人に読まれており、政治や経済上の出来事を6~7時間後には論評している。日本で起きている時事問題も、日本の報道とは違う視点で、詳しく客観的に述べています。大局的な視野に立って考えるうえで、非常に役立ちます。
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