松井道夫
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お客を騙して儲けようといった魂胆は、通用しないのだ。
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30年ほど前、私が社会に出た時には、時代に大きな変化はなく、過去の延長線上に未来があると信じることができました。しかし、当時大企業と言われていたところは、現在凄まじい競争の渦中にあり、のたうちまわっています。みんなが思い描いていた将来のイメージとは全然違い、予想もしなかった変化が起きているのです。
2
会社と顧客は信用市場で、同じように、リスクを負っている。掛け目0とは、そのリスクをすべて顧客に押し付けたことを意味している。業界では非常識すぎて話にならない。
ソニーが初代ウォークマンを開発しようとしたとき、社員やお客さんが「録音機能がついていないものなど絶対に売れない」と言うのを聞いて、盛田さんだか忘れましたが、「だったら、やろう」と決意されたそうですが、この話は私の中でストンと落ちました。「さすがだなあ」って。みんなが反対するからこそ、やる価値がある。だれもが賛成することはやる価値がない。やる前になるほどねというようなことをやってもしょうがない。
今の若者は会社に対する帰属意識が低い。自分の会社を「我が社」なんて言わないしね。お昼ご飯を会社の人と一緒に食べたりする人も減ったよね。個人と組織のつながり、関係性が明らかに変わってきている。こういう若者の動きを「今時の若者は……」と一言で片づけていてはダメ。日本人の感性や価値観が変わってきた証しと認めないと。若者の考えや行動を理解しろとは言わないけど、少なくとも認識はしなくちゃ。そうしないと、いつまでたっても日本は変われません。
突破口は自分で創るという気概でやっていく。
だいたい、資本主義、市場経済の世の中で、国境を気にすること自体が間違っている。
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私は日本がもう終わりだとは思っていません。一番のカギを握るのは若者ですよ。これまでの歴史の中で年寄りが歴史を変えたなんて話、聞いたことがない。世の中に変化をもたらすのはいつの時代も若者です。
できない理由を一所懸命探して、できない、できるはずがないと自分に言い聞かせる人とは、私は一緒に仕事はしたくありません。「できるはずだ」と一緒になって悩み苦しむ人と仕事がしたい。どこかに乗り越えられる解があるのです。つじつまを合わせて、他人がやっているのと同じようなことをきれいに整理してやりましたと言われても、「そんなのつまらないよ」と言うしかありません。
インターネット株取引を開始したことがイノベーションだったとは思っていません。誰でも思いつきますから。外交営業をやめたことの方が遥かに画期的だったと思います。顧客はそれを欲していないと気が付いただけに過ぎません。今から思うと当たり前のことなんですが、実行するのは大変でした。
いまは革命期の真っ最中です。世の中の風景は、大きく変化しています。これに気付いている人と、気付いていない人とでは天と地ほどの差が出てきます。たしかに、過去の延長線上に歴史が続いているのは事実です。しかし、必ず100年か200年に一回、世の中の様相がガラッと変わるエポック・メーキングな時代があるんですね。いま私たちが立っているのは、まさにその地点です。
コーポレート・ガバナンスというのは、リーダーに強い権限を与える一方、失敗した場合にはそのリーダーをパージする仕組みです。「あいつの言っていることを信じてやらせてみよう」、「そのかわり、判断ミスが明らかとなった場合には辞めさせる」という2つの仕組みが揃わなければ、リーダーの思い込みに組織を委ねることなどできません。
当初の路線を継続しようが、しまいが、どっちみち叩かれる。どうせ叩かれるんだったら、自分が信じた道を行った方がいい。
利益は明らかに先細っていますが、それを環境のせいになんかにしたくありません。智恵が不足しているからだと思っています。
デフレの今はとにかく安いものがいいという考えでビジネスモデルをつくっているところがたくさんあるし、それはそれで儲かっていても、インフレに切り替わったとき、それらは一瞬にしてつぶれます。時代が変わるというのは、天地がひつくり返ることですが、同時に会社もひつくり返るのは、できれば御免こうむりたい。だから、インフレ時代にいったいどうなるのかを考えて、いまのうちから準備しておくのが商売ですよね。
競争できない弱者は救わないといけませんが、今は競争できるはずの敗者が弱者のフリをして「弱者を救うべきだ」と言っているように思えてなりません。敗者が「強者はけしからん。俺たちを救え」と言ったら健全な競争がなくなりますよ。
本を読むときは、書かれていることをそのまま受け取るのでなく、「つまり○○ということ」といった具合に、必ず自分流に解釈することを心がけています。
今後、会社の中でビジネスを担っていくには、自由な発想ができる人間じゃないとだめです。そうはいっても、松井証券でいえば、社員に「私の決断に従え」と言っておきながら、彼らに「自由な発想をしろ」と言うのは矛盾のように思われるでしょう。でも、これはいわば二律背反の関係です。私が決めるんじゃない。私が決めるのは方向性だけ。それを理解したうえで、あとは社員が自分たちでやる。そのためには今の常識を一回捨て、自由な発想をしてくれと言うことなのです。
おじいちゃん、おばあちゃんの頭になれよ。
そもそも経営とは会社の進む方向と、時代の潮流とのギャップを埋める作業だと思います。その上で社長の仕事は、社長室で座禅を組んで考えることです。つまり、世の中がどういうふうに変わるのか、何が本質なのか、とことん考え抜くことです。本当はいくら考えたって真実はわからないんです。でも、考えなくちゃいけない。社長が考えて世の中の流れを判断して、それを前提にビジネスをやるんです。
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