大事にしていることは、カタログのスペックを追いかけてもダメだってことさ。これは車を作るためにはものすごく大事なポイントなのに、俺はぜんぜん気づいていなかった。それがわかったのは、ヨーロッパの道路で車を開発していたときのことでね。「あれ、おかしいぞ?」と思ったんだ。どうも、ヨーロッパの車はちゃんと「自動車」としての音がするのに、俺たちの開発していたものからは「ブリキ」の音しかしないようだぞ、と。当時の日産の車も、カタログに載っている性能としてはとても優秀だったのよ。それなのに何で、カタログのスペックではスピード面で上回っているはずのヨーロッパの車に「連続して走れる距離」では負けてしまうのか。それに、フォルクスワーゲンの「ゴルフ」なんてすばらしいと思ったけれど、数字としては室内寸法はとても小さいはずなのに、車内で座ると広く思える。しかも、長い時間ドライブしていても疲れない。カタログの最高速度は日産車より20キロも下のくせに、雨のアウトバーンでは日産車よりも30キロも速く走るんだ。これは「ゴルフがそのように設計されていた」と言うしかないよね。お客さんのために、なんて大切なことに気がついたつもりになっていたけど、「最高速度、馬力、室内の寸法、ブレーキの停止距離」などと俺はカタログのスペックばかりを追いかけてしまっていたんだとわかった。

水野和敏

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