鍵山秀三郎
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国や社会、個人の進退でも理想を語ることは簡単です。しかし、理想とはあくまでも理想であって、時間をかけて到達するものです。それをいますぐやれると言うことは欺瞞にほかなりません。子供が飛行機の操縦士になりたいと言うのは将来の夢です。それをいまもう、すぐにでもなれるかのようにそそのかしてはいけません。正しい努力のしかたこそ伝えるべきなのです。
各種のセミナーで、「会社は利益をあげないと一人前ではない。まず一億円以上の利益をあげないと一流の経営者としての資格などない」と言われる。私の知人のある経営者はその言葉を信じて、一億円の利益をあげるまでにがんばった。ところが目標が達成されたからいい会社になったかというと、決してそうではありませんでした。社員それぞれが勝手なことを言い出して、社風が悪くなった。おりしもバブルが崩壊し始めて、売上が下がっていく。彼は真っ青になりました。私が彼と出会ったのはそんな状態のときでした。私は売上よりも大切なものがあると諭しました。その後、彼が私の助言で経営のやり方を変えたところ、会社がよくなったのです。今は売上がピーク時から比べると4割減、半分になることすらあります。ところが自己資本比率は90%、キャッシュフローは300%という強い経営体質の会社になりました。ですから知人は、もしあのとき、あのまましゃにむに売上、利益に固執していたら、会社はなくなっていたと思うと述懐していました。目に見える、数値で示されるものだけを追い求めていくと、結局行き詰まるのです。
いまだかつて、倒産した企業で、きれいに整然と掃除が行き届いていた会社はありません。
私は社員にいい人間になってほしい、社会、国をよくしたいという願いを込めて掃除をしています。このように目的が定かなら、それを実現するための手段・方法は自分の中から湧いてきます。
世の中には、大切なことでも見捨てられ、見過ごされ、見逃されていることがたくさんあります。なぜか。ひと言でいえば、よいことだとは思っても、「なんだそんなことか」という見解で片づけてしまっているからなのです。けれども一見些細な「なんだそんなことか」というようなことに対しても、おろそかにしないで真剣に取り組んでみる。そうすれば、必ず成功するかどうかは分かりませんが、成功の元になると思うのです。
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自分の任期中だけの成績を上げようとするのではなく、もっと大きな志を持って、あるべき正しい姿を貫き通してほしい。
足元のゴミひとつ拾えぬほどの人間に、何ができましょうか。
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それぞれの家庭に家風があるように、会社には社風があります。私はこの社風が、経営をしていくうえで最も大切なものだと考えています。私は売上や利益の規模だけがいい会社の尺度だとは思いません。
いつの時代も異端な生き方は、人から理解されるようになるのには時間がかかります。私がやってきた掃除は、いま学校関係者のなかでその重要性が理解され、教育活動の一環に取り上げるところが増えてきましたし、地方自治体などでも注目するようになりましたが、社会に認知されるようになるまで30年かかっています。それもやっと理解され始めたというところです。それほど時間がかかるものです。
人間の心は、そう簡単に磨けるものではありません。ましてや、心を取り出して磨くことなどということはできません。心を磨くには、とりあえず、目の前に見える物を磨ききれいにすることです。とくに、人のいやがるトイレをきれいにすると、心も美しくなる。人は、いつも見ているものに心も似てきます。
私はどんなことでも遠くのほうから始めます。たとえば、戦が始まったとして、はやっていきなり敵方の城の本丸に乗り込んだら、すぐにやられてしまいます。そのような性急なことをせず、外堀から埋めていく。遠くのほうから誰にも分からないほど少しずつ着手して、気がついたら、あっ、こういうことをやってきたのかというのがいい。いつも私はその手法なのです。
人は人に対してたいへん大きな影響を与えうるものです。親子であれば親が節度を保ち、実践していれば、よい感性は子どもに継承されるはずです。また他人同士でも、お互いに影響を及ぼし合います。
たとえば、伊勢神宮参りでは、内宮に行く前、宇治橋を渡るだけでもう清涼な雰囲気を感じて、伊勢神宮に来たという気持ちになる。学校でもきちっとした学校は、近くに行っただけでいい学校だと分かります。人間の心は見ているものに似ていく。だからこそ、よい会社の雰囲気をつくっていれば、社員の心情はおのずと安らぎ、正しい仕事につながっていく。これが私の信念なのです。
同じホテルに二泊三泊するときに、私はちゃんと部屋に書いておくのです。「私は今日も泊まりますから、このシーツも寝巻きも、枕カバーも何も洗濯しなくてけっこうです。このままでいいです」と。そうすると無駄に洗濯をしないで済みますね。
東日本大震災でも、パニックにならず節度を守った日本人は立派でした。いまあらためて言えるのはそれも国力であるということです。それを支えているのは昔の武士道精神や寺子屋教育といった、日本の優れた精神文化です。その伝統はかなり失われていますが、まだ少しは貯金があります。
自分の才能を見つけて成功できたらこんな喜びはありません。ただ私の体験で申しあげるならば、自分の才能を発揮している人はどんな人かというと、まず言えることは「他人が『なんだそんなことか』と思うような取るに足らないことに一所懸命取り組んでいる人」です。
子どもたちとトイレ掃除をする運動をしています。わずか2、3時間でも、子どもたちの心映えに打たれることがあります。たとえば、「今まではトイレを汚しても平気だったけれども、掃除してみたら、もうこれからは汚せない」とか、「今まで家のトイしはおばあちゃんが掃除してくれて、何とも思わなかったけれども、おばあちゃんがこんなしんどいことを毎日やっている。私もときどきでいいから手伝いたい」と言ってくれる。
根を養えば、木は自ずから育つ。
常々言っていることですが、「大きな努力で小さな成果」です。成果がすぐ出ないからといって焦ってはいけません。
創業以来30年間、私自身は、結果よりも過程を大事にする、道程を大事にする考え方で事業をやってきました。そういう生き方は、当初は成果が得られないように見えますが、隠れた努力は必ず道を開き、会社が必要とする売上げが得られるようになりました。
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