本田宗一郎
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私の手が語る。
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家康は嫌い。
昔の話になるけど、ホンダが埼玉工場を建設した直後に松下幸之助さんが「見せてください」と言うのでご案内したことがある。この時は一般の人のように機械のこと、クルマ製造の技術などを説明してあげたんだ。この時、松下さんは「私は技術者じゃないから、よく分かりませんな」と言っていましたよ。ところが、じっくり見て回った後、たった一言、「本田さん、この商売は儲かりますね」とハッキリ言ったんですよ。これはね、松下さんは確かに車のことは分からないだろうけど、機械の配列、人員、作業工程の流れなんかを素早く読み取った言葉だったんだね。この態度は、僕たちも見習うべきだと思う。
人間に必要なのは困ることだ。絶体絶命に追い込まれたときに出る力が本当の力です。伸びる時には必ず抵抗がある。必死のときに発揮される力というものは人間の可能性を予想外に拡大するものである。
やろうと思えば人間はたいていのことができると私は思っている。
失敗したからといって、くよくよしている暇はない。
良策も遅れては意味がない。
本田技研って会社が今日あるのは、パートナーがよかったからってだけじゃない。最大の理由は会社に若さがあったってことだろう。俺も藤沢も若かったけど、周りがみんなもっと若くて、エネルギーのある奴らばかりだったんだ。若い社員たちは、俺がどんなに叱ろうが、怒鳴ろうがびくともしない。かえってやる気を起こすんだ。これが年寄りばかりだったら、そうはいかないよね。
困れ。困らなければ何もできない。
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創立期に藤沢武夫って経営の名人に巡り合えて、二十数年も一緒に仕事をしてきた。世間の人たちは、俺と藤沢のことを水と油だとか、太陽と月だとかに例えて言っているようだけど、若いころに腹をぶち割って話し合い、互いの長所を心底認め合ったんだ。ちょっとやそっとじゃ壊れる仲じゃない。男同士の友情なんて派手な言葉は好きじゃないが、他人に友情を求めるなら相手の秘密を絶対に守ること。人間親しくなれば当然相手の不可侵領域まで立ち入るようになる。それを軽々しく他人に喋るようじゃ、友情だの信頼だのが成り立つわけがないよね。
経営者が年寄りの会社は停滞する。
僕は創業時からいつも世界を市場と考える思想を持っていた。日本人はチマチマ小さくまとまらずに。もっと大きくなれと言いたい。
大きな夢は人に理解されない。
こころのなかに残っている不満をリストアップしてみると、ビジネスチャンスはいっぱいあることに気づく。すべての不満やクレームが新しいサービスのきっかけになる。
飛行機は飛び立つときより着地が難しい。人生も同じだよ。
はんぱな者どうしでも、お互いに認めあい、補いあって仲よくやっていけば、仕事はやっていけるものだ。
会社の為に働くな。自分が犠牲になるつもりで勤めたり、物を作ったりする人間がいるはずない。だから、会社の為などと言わず、自分の為に働け。
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人間は失敗する権利をもっている。しかし失敗には反省という義務がついてくる。
社長なんて偉くも何ともない。課長、部長、包丁、盲腸と同じだ。要するに命令系統を、はっきりさせる記号に過ぎない。
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技術屋ってのは、手でモノを作る商売なんで、しゃべったり、文章を書いたりするのは俺は苦手なんだよ。その俺にかしこまった人生訓だの家庭訓だなんて苦手だね。だいたい、おれにとって家庭訓が一番難しいってことは、世間様のほうがよく知っているよ。それでもまあ、自分の生き方を強いて言うなら「当たり前のことを当たり前にやる」ってことかな。こんなことは人生訓にゃならないかもしれないけど、俺はこれまで当たり前のことを当たり前にやってきたつもりだよ。
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