香山リカ
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自分の立てた目標にがんじがらめになり、いつも「達成できなかったらどうしよう」と戦々恐々として生きる、というのは明らかに行き過ぎです。それがさらに進むと、「生きているだけで奇跡」どころか、1ミリの喜びも感じることができなくなります。自分が色あせた人間としか思えなくなってしまいます。だから、目標は「立てるべきもの」ではなく、「立ててもいいもの」くらいに考える。まずはこれが原則だと思います。
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自分のキャパシティを超えて頑張ってしまうのは、周囲に自分を肯定してもらいたい気持ちがあるからです。その気持ちは、「仕事を投げ出すと評価が下がるのではないか」「会社から見限られるのではないか」という不安の裏返しなのです。では、本当に頑張れば評価されるのでしょうか。いまは残業しない人が評価される時代です。仕事を抱え込んでズルズルと仕事をしていると「効率が悪い」と上司に叱られて、むしろ評価を下げてしまいかねません。
目標が達成できなかったとき、まず取り組むべきは、失敗した自分の正当化です。計画を達成できなかったときに大切なのは、自分を責めたり落ち込んだりすることに時間とエネルギーを奪われないことです。そして、なるべく早く前の失敗はなかったことにして、また仕切り直しを試みる。そうすればむしろ、当初の想定より早いスピードで目標を達成することもできるかもしれません。
仕事を抱えて悶々としている人は、思い切って仕事を他の人に振ってみることをお勧めします。自分の仕事を手放すことに抵抗を感じるのなら、余裕があるときに相手の仕事も手伝ってあげればいいのです。お互いの得意不得意を踏まえて仕事を交換するのだと考えれば、抵抗感を減らせるはずです。
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「ほかの人に仕事を振るのはサボっているようで嫌だ」と頑なに仕事を抱え込む人も少なくありません。こうした考え方をする人は要注意です。頑張りすぎて、自分を心身ともに傷つけてしまう危険があります。どうして頑なに自分で仕事を抱え込もうとするのか。それは責任感の強さゆえではなく、根底に不安を抱いているからでしょう。
多くの真面目なビジネスマンたちにとって、自分を責めることや落ち込むことほど能力を低下させるものはありません。「また失敗してしまった」と落ち込むことで萎縮してしまい、心と体がこわばって、結局また失敗してしまう。こういう失敗・頓挫のスパイラルにはまってしまうことだけは、なんとしても避けたいところです。
評価されない不安から逃げられないときは、会社以外の場所で、自分を肯定してくれるところをつくるのもいいと思います。
懸命に仕事をしてきた人に、いきなり人生を謳歌しろといっても無理があります。人生を楽しむためにもそれなりのトレーニングが必要です。若い時期から、頑張りすぎる自分にブレーキをかけて、自分のもう一つの軸、本当のワーク・ライフ・バランスについて、考えてみることはできるはず。そうした積み重ねで、人生は豊かになっていくのかもしれません。
社会のために自分は何ができるのか、改めて考えてほしい。会社人生で培ったスキルは決して無駄にはなりません。次の世代に自分の力を貸す、むしろ提供するぐらいの気持ちも必要でしょう。
私は基本的にその日のことしか考えないようにしているのです。「今日は、これとこれをやったら終わり!」と思えば、どんなに忙しい日でも、なんとか乗り切れるじゃないですか。
もしスケジュールや計画を立てるとしたら、それは一度立てたら変えられないものではなく、状況に応じて修正や見直しをしていくものと考えた方がいいと思います。状況変化を受け入れられないような計画は、その時点ですでに計画倒れになっているのですから。
努力して獲得できるものは、人生をそれほど画期的には変えないと思う。せいぜい資格の免状一枚分を履歴書に書けるとか、その程度。そう考えると、払った努力のコストパフォーマンスはとても悪い。だったらもっとのんびり楽しくやってもいいんじゃないかと思ってしまう。
最近の「前向きであることがいいことだ」という風潮も疑ったほうがいいと思います。いまは就職活動で、みんなが自分はポジティブな性格であることをアピールします。しかし、かつての日本は奥ゆかしいことが美徳でした。前向きさを主張することがいいことだという考えは、決して普遍的ではないのです。
時代の空気を気にし過ぎながら生きるのは、実にストレスフルです。たとえ古い価値観から逃れても、その時代の新しい価値観に乗り遅れることを恐れてびくびくしているようでは、本末転倒。かえって自分をすり減らしてしまうだけです。世の中がある方向に向かって一斉に動いているときは、あえて一歩引いて眺める意識が大切です。
諦めないことはもちろん大切なんだけど、それを持ちすぎると、夢や希望もいつしか幻想になってしまう。それに、諦めることは必ずしも悪いことばかりではなく、裏返すと、感謝の気持ちにもなる。小さな家しか建てられなくても、「雨露をしのげるだけでもありがたい」と思ったり。
オリジナリティにこだわりすぎないということが大切です。むしろオリジナリティはなくてもいいのではないでしょうか。あるにこしたことはありませんが、大事なのは、すべてをゼロから考えだそうとせずに、すでにあるフォーマットを上手く利用すればいいということです。
先の見えない時代に未来の計算はとても難しい。だからこそ直感のような感覚がとても重要になる。
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ついつい頑張りすぎて、心が疲れてしまった。そんな時は、とりあえず3時間、携帯電話やパソコンの電源をすべて落としてみてください。そして、あらゆる情報を遮断して、黙々と手作業に取り組むことをお勧めします。心静かに手を動かし、何かを達成することができれば、終わった頃には心も静まり、日分への自信も回復しているはずです。
人間にとって最大のストレスは思い込みなのではないかと、私も最近よく感じています。たとえば現代では、ビジネスの世界はもちろん、あらゆる場面で「即断即決」がよしとされていますよね。でも私は、こういう価値観もそうした思い込みのひとつにすぎないと考えています。
キャリアプラン、ライフプランを立てるとしても、予想外のことが起きたときには「そういうこともある」と受け止めることが大切です。上手くいかないときにはバイオリズムや星の巡り合わせのせいにしたっていいのです。引きずる時間をできるだけ短くして、臨機応変に対応していきましょう。
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