香山リカ
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もしスケジュールや計画を立てるとしたら、それは一度立てたら変えられないものではなく、状況に応じて修正や見直しをしていくものと考えた方がいいと思います。状況変化を受け入れられないような計画は、その時点ですでに計画倒れになっているのですから。
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諦めないことはもちろん大切なんだけど、それを持ちすぎると、夢や希望もいつしか幻想になってしまう。それに、諦めることは必ずしも悪いことばかりではなく、裏返すと、感謝の気持ちにもなる。小さな家しか建てられなくても、「雨露をしのげるだけでもありがたい」と思ったり。
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懸命に仕事をしてきた人に、いきなり人生を謳歌しろといっても無理があります。人生を楽しむためにもそれなりのトレーニングが必要です。若い時期から、頑張りすぎる自分にブレーキをかけて、自分のもう一つの軸、本当のワーク・ライフ・バランスについて、考えてみることはできるはず。そうした積み重ねで、人生は豊かになっていくのかもしれません。
オリジナリティにこだわりすぎないということが大切です。むしろオリジナリティはなくてもいいのではないでしょうか。あるにこしたことはありませんが、大事なのは、すべてをゼロから考えだそうとせずに、すでにあるフォーマットを上手く利用すればいいということです。
ついつい頑張りすぎて、心が疲れてしまった。そんな時は、とりあえず3時間、携帯電話やパソコンの電源をすべて落としてみてください。そして、あらゆる情報を遮断して、黙々と手作業に取り組むことをお勧めします。心静かに手を動かし、何かを達成することができれば、終わった頃には心も静まり、日分への自信も回復しているはずです。
人間にとって最大のストレスは思い込みなのではないかと、私も最近よく感じています。たとえば現代では、ビジネスの世界はもちろん、あらゆる場面で「即断即決」がよしとされていますよね。でも私は、こういう価値観もそうした思い込みのひとつにすぎないと考えています。
評価されない不安から逃げられないときは、会社以外の場所で、自分を肯定してくれるところをつくるのもいいと思います。
精神科医は悩みの原因を掘り下げる仕事と思われがちなんですが、すべてのことに原因があるわけじゃないでしょう。親とうまくいかない人が「どうしてこんな母親のもとに生まれたんだろう」と考えてもきりがないですか。だったら、割り切って家を離れて一人暮らしをするとかね。そうやって現実的に対応していくのが、精神医療のカウンセリングの中でも主流になってきています。
大事な決断こそ、その場で結論を出さずに先延ばしすべきだと思います。これは精神科医の経験からいえることなのですが、人間が大きなことを決断したがるときというのは、ストレスで心が弱っていたり、気持ちが追いつめられていたりする場合が多いのです。うつ病などで診察を受けにくる私の患者さんたちも、よいことも悪いことも含めて重要な決断をしようとします。何かしら大きな決断をすることで、無意識のうちに起死回生は一発逆転を図ろうとしている可能性が高いのです。
仕事を抱えて悶々としている人は、思い切って仕事を他の人に振ってみることをお勧めします。自分の仕事を手放すことに抵抗を感じるのなら、余裕があるときに相手の仕事も手伝ってあげればいいのです。お互いの得意不得意を踏まえて仕事を交換するのだと考えれば、抵抗感を減らせるはずです。
不本意な思いは、メンタルヘルスに悪い影響を与えます。月100時間の残業をしている人でも、自分で納得して働いている人でも、自分で納得して働いている人はメンタルの不安がほとんどありません。疲れているのは身体だけなので、睡眠時間をきちんと確保するなどの対処をすれば、まず問題ありません。ところが自分の努力が報われていないという思いを抱えている人は、長時間労働で身体とともに心にも疲労がたまっていきます。それがうつにもつながります。
何事もスピードが重視される時代ですが、世の中には時間をかけることで自然に良い方向に向かうこともたくさんあると思っています。ビジネスにおいても私生活においても、人生の中で大事なことこそ、あえて決断を先送りにする積極的な意味を考えてみてはいかがでしょうか。
知り合いの子供の話ですが、「ぬ」という字が書けず逆に書いてしまったそうです。でも知人は「違う」と指摘せず「面白い」と言いました。字はいつか書けるようになるのですから、このような間違いもオリジナリティとして評価してあげると自己重要感が高まると思います。
学生の卒業論文の指導をしていてよく思うのは、彼らの多くが、「自分にしか書けない独創的な論文を書こう」という勘違いをしていることです。そういう学生に限って、資料や文献をやみくもに漁って、分厚いレポートにまとめてくるのですが、それは論文とはいえません。まず問題提起があり、それに対し仮説を立て、自分なりの解答を示すというのが論文に求められる定型です。いそうしたお作法に則っていなければ、いくらデータや情報をたくさん集めても評価されることはありません。
自分のキャパシティを超えて頑張ってしまうのは、周囲に自分を肯定してもらいたい気持ちがあるからです。その気持ちは、「仕事を投げ出すと評価が下がるのではないか」「会社から見限られるのではないか」という不安の裏返しなのです。では、本当に頑張れば評価されるのでしょうか。いまは残業しない人が評価される時代です。仕事を抱え込んでズルズルと仕事をしていると「効率が悪い」と上司に叱られて、むしろ評価を下げてしまいかねません。
どこかで「頑張って働くことはいいことだ」という価値観から抜け出して、人生を楽しむゆとりを持つことが大切です。そのためには、会社で働く自分という社会的な軸と、もうひとつの軸を持っておくことが有効です。何かひとつでいいので、自分が好きなもの、ここなら自分を認めてもらえるという場所をつくっておくこと。私自身も、医師でありながら執筆など別の仕事もしてきたことが、心のゆとりを形成してきたように思います。
「ほかの人に仕事を振るのはサボっているようで嫌だ」と頑なに仕事を抱え込む人も少なくありません。こうした考え方をする人は要注意です。頑張りすぎて、自分を心身ともに傷つけてしまう危険があります。どうして頑なに自分で仕事を抱え込もうとするのか。それは責任感の強さゆえではなく、根底に不安を抱いているからでしょう。
本当に大切なのは、「身体に良いこと」と「心のストレス」とのバランスをとることです。「いくら身体に良くても、これ以上はストレスになるな」とおもったら、ほどほどにしておくというのが一番いいのです。
テンションの高い状態は長く続かず、いつか燃え尽き状態になったり、突然起き上がれなくなってうつになることもあります。落ち込みたいときには素直に落ち込めばいい。周りがテンションをあげているからといって、それに合わせる必要はないのです。
努力も挑戦もしないで、街を歩いていたら突然スカウトされるなんてことを夢見ている女のコもいます。そんなことはまずない。
香山リカのすべての名言