香山リカ
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うつの治療でも手作業が見直されています。昔から、患者に園芸作業をしてもらうなどの治療が経験的に行われてきましたが、最近は大豆を右から左に移すような単純作業でも効果があるという研究者が出てきました。単純作業には暗い考えを遮断する効果があるのです。
テンションの高い状態は長く続かず、いつか燃え尽き状態になったり、突然起き上がれなくなってうつになることもあります。落ち込みたいときには素直に落ち込めばいい。周りがテンションをあげているからといって、それに合わせる必要はないのです。
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学生の卒業論文の指導をしていてよく思うのは、彼らの多くが、「自分にしか書けない独創的な論文を書こう」という勘違いをしていることです。そういう学生に限って、資料や文献をやみくもに漁って、分厚いレポートにまとめてくるのですが、それは論文とはいえません。まず問題提起があり、それに対し仮説を立て、自分なりの解答を示すというのが論文に求められる定型です。いそうしたお作法に則っていなければ、いくらデータや情報をたくさん集めても評価されることはありません。
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努力も挑戦もしないで、街を歩いていたら突然スカウトされるなんてことを夢見ている女のコもいます。そんなことはまずない。
みんなに認めてもらえる働き方をめざす自分に疲れを感じるなら、いっそ自分磨きをやめてもいいと思います。仕事で輝かなくてはいけないという考え方は、普遍的ではありません。日々の生活ができればいいという考え方があってもいいはずだし、経済的に豊かではなかった時代はそれが当たり前でした。
人付き合いが苦手だと思っている若い人の多くも、決して人間自体を嫌っているわけではないと思うんです。そういう人たちは、旧来の上下や立場が重視される付き合いではなく、もっと等身大の自分を出せる付き合いができれば、案外上手くやっていけるのかもしれません。
何事もスピードが重視される時代ですが、世の中には時間をかけることで自然に良い方向に向かうこともたくさんあると思っています。ビジネスにおいても私生活においても、人生の中で大事なことこそ、あえて決断を先送りにする積極的な意味を考えてみてはいかがでしょうか。
私の患者さんでも、ネット上のコミュニティではみんなから認められているのに、「じゃあ現実でも頑張ってみよう」となると、なかなか踏み出せない人が多いんです。バーチャルでのコミュニケーションは、ある種の救いにはなっても、現実に向き合うまでの力にはなりづらいということかもしれません。
辛いと感じたら、極端な逃げ方をする前に、しばらく休んでみることが大切です。
精神科医は悩みの原因を掘り下げる仕事と思われがちなんですが、すべてのことに原因があるわけじゃないでしょう。親とうまくいかない人が「どうしてこんな母親のもとに生まれたんだろう」と考えてもきりがないですか。だったら、割り切って家を離れて一人暮らしをするとかね。そうやって現実的に対応していくのが、精神医療のカウンセリングの中でも主流になってきています。
ヘタな商法に安易に手を出すのは危険です。「君には才能がある」とか「君にならできる」なんて甘い言葉をささやきつつ近づいて、悪徳商法の罠にかけようとする人もいますから。自己評価が下がっているときは、とくに注意が必要です。
心が疲れているときは、いきなり大きく環境を変えようとはせずに、まずは小さなことから変えてみるのがいいと思います。
ついつい頑張りすぎて、心が疲れてしまった。そんな時は、とりあえず3時間、携帯電話やパソコンの電源をすべて落としてみてください。そして、あらゆる情報を遮断して、黙々と手作業に取り組むことをお勧めします。心静かに手を動かし、何かを達成することができれば、終わった頃には心も静まり、日分への自信も回復しているはずです。
割り切るのはすごく大事。
どんな法律が自分たちを守ってくれているのか、あるいは逆に、追い込んでいるのか、といったことも知った方がいいでしょう。
諦めないことはもちろん大切なんだけど、それを持ちすぎると、夢や希望もいつしか幻想になってしまう。それに、諦めることは必ずしも悪いことばかりではなく、裏返すと、感謝の気持ちにもなる。小さな家しか建てられなくても、「雨露をしのげるだけでもありがたい」と思ったり。
今の社会がずっと続くという前提で人生設計をしてはいけない。
上流を目指して頑張っている人も、勝ち組に向かって邁進するのは尊いことだけど、そういう人たちこそ、上流と下流がはっきり分かれる社会の落とし穴の部分にも目を向けて欲しいですね。自分たちだけが成功すればいいという社会は、やっぱり活力をなくして衰退していくと思うんです。
多くの人がイメージする仕事ができる人や理想の人は、結構ステレオタイプで、バリバリ働く外資系のビジネスマンだったり、テレビドラマに出てくるようなやり手の弁護士や医師だったりします。でも、地味でも仕事を着実に丁寧にこなす優秀な人は大勢います。理想を追い求めることを否定することはないけれど、理想そのものが自分に合っていないことも、決して珍しくないんです。
努力して獲得できるものは、人生をそれほど画期的には変えないと思う。せいぜい資格の免状一枚分を履歴書に書けるとか、その程度。そう考えると、払った努力のコストパフォーマンスはとても悪い。だったらもっとのんびり楽しくやってもいいんじゃないかと思ってしまう。
香山リカのすべての名言