香山リカ
1
ついつい頑張りすぎて、心が疲れてしまった。そんな時は、とりあえず3時間、携帯電話やパソコンの電源をすべて落としてみてください。そして、あらゆる情報を遮断して、黙々と手作業に取り組むことをお勧めします。心静かに手を動かし、何かを達成することができれば、終わった頃には心も静まり、日分への自信も回復しているはずです。
オリジナリティにこだわりすぎないということが大切です。むしろオリジナリティはなくてもいいのではないでしょうか。あるにこしたことはありませんが、大事なのは、すべてをゼロから考えだそうとせずに、すでにあるフォーマットを上手く利用すればいいということです。
0
諦めないことはもちろん大切なんだけど、それを持ちすぎると、夢や希望もいつしか幻想になってしまう。それに、諦めることは必ずしも悪いことばかりではなく、裏返すと、感謝の気持ちにもなる。小さな家しか建てられなくても、「雨露をしのげるだけでもありがたい」と思ったり。
2
大事な決断こそ、その場で結論を出さずに先延ばしすべきだと思います。これは精神科医の経験からいえることなのですが、人間が大きなことを決断したがるときというのは、ストレスで心が弱っていたり、気持ちが追いつめられていたりする場合が多いのです。うつ病などで診察を受けにくる私の患者さんたちも、よいことも悪いことも含めて重要な決断をしようとします。何かしら大きな決断をすることで、無意識のうちに起死回生は一発逆転を図ろうとしている可能性が高いのです。
努力して獲得できるものは、人生をそれほど画期的には変えないと思う。せいぜい資格の免状一枚分を履歴書に書けるとか、その程度。そう考えると、払った努力のコストパフォーマンスはとても悪い。だったらもっとのんびり楽しくやってもいいんじゃないかと思ってしまう。
知り合いの子供の話ですが、「ぬ」という字が書けず逆に書いてしまったそうです。でも知人は「違う」と指摘せず「面白い」と言いました。字はいつか書けるようになるのですから、このような間違いもオリジナリティとして評価してあげると自己重要感が高まると思います。
もしスケジュールや計画を立てるとしたら、それは一度立てたら変えられないものではなく、状況に応じて修正や見直しをしていくものと考えた方がいいと思います。状況変化を受け入れられないような計画は、その時点ですでに計画倒れになっているのですから。
懸命に仕事をしてきた人に、いきなり人生を謳歌しろといっても無理があります。人生を楽しむためにもそれなりのトレーニングが必要です。若い時期から、頑張りすぎる自分にブレーキをかけて、自分のもう一つの軸、本当のワーク・ライフ・バランスについて、考えてみることはできるはず。そうした積み重ねで、人生は豊かになっていくのかもしれません。
私は基本的にその日のことしか考えないようにしているのです。「今日は、これとこれをやったら終わり!」と思えば、どんなに忙しい日でも、なんとか乗り切れるじゃないですか。
どこかで「頑張って働くことはいいことだ」という価値観から抜け出して、人生を楽しむゆとりを持つことが大切です。そのためには、会社で働く自分という社会的な軸と、もうひとつの軸を持っておくことが有効です。何かひとつでいいので、自分が好きなもの、ここなら自分を認めてもらえるという場所をつくっておくこと。私自身も、医師でありながら執筆など別の仕事もしてきたことが、心のゆとりを形成してきたように思います。
評価されない不安から逃げられないときは、会社以外の場所で、自分を肯定してくれるところをつくるのもいいと思います。
多くの真面目なビジネスマンたちにとって、自分を責めることや落ち込むことほど能力を低下させるものはありません。「また失敗してしまった」と落ち込むことで萎縮してしまい、心と体がこわばって、結局また失敗してしまう。こういう失敗・頓挫のスパイラルにはまってしまうことだけは、なんとしても避けたいところです。
テンションの高い状態は長く続かず、いつか燃え尽き状態になったり、突然起き上がれなくなってうつになることもあります。落ち込みたいときには素直に落ち込めばいい。周りがテンションをあげているからといって、それに合わせる必要はないのです。
仕事を抱えて悶々としている人は、思い切って仕事を他の人に振ってみることをお勧めします。自分の仕事を手放すことに抵抗を感じるのなら、余裕があるときに相手の仕事も手伝ってあげればいいのです。お互いの得意不得意を踏まえて仕事を交換するのだと考えれば、抵抗感を減らせるはずです。
努力も挑戦もしないで、街を歩いていたら突然スカウトされるなんてことを夢見ている女のコもいます。そんなことはまずない。
目標が達成できなかったとき、まず取り組むべきは、失敗した自分の正当化です。計画を達成できなかったときに大切なのは、自分を責めたり落ち込んだりすることに時間とエネルギーを奪われないことです。そして、なるべく早く前の失敗はなかったことにして、また仕切り直しを試みる。そうすればむしろ、当初の想定より早いスピードで目標を達成することもできるかもしれません。
辛いと感じたら、極端な逃げ方をする前に、しばらく休んでみることが大切です。
自分の立てた目標にがんじがらめになり、いつも「達成できなかったらどうしよう」と戦々恐々として生きる、というのは明らかに行き過ぎです。それがさらに進むと、「生きているだけで奇跡」どころか、1ミリの喜びも感じることができなくなります。自分が色あせた人間としか思えなくなってしまいます。だから、目標は「立てるべきもの」ではなく、「立ててもいいもの」くらいに考える。まずはこれが原則だと思います。
不本意な思いは、メンタルヘルスに悪い影響を与えます。月100時間の残業をしている人でも、自分で納得して働いている人でも、自分で納得して働いている人はメンタルの不安がほとんどありません。疲れているのは身体だけなので、睡眠時間をきちんと確保するなどの対処をすれば、まず問題ありません。ところが自分の努力が報われていないという思いを抱えている人は、長時間労働で身体とともに心にも疲労がたまっていきます。それがうつにもつながります。
心が疲れているときは、いきなり大きく環境を変えようとはせずに、まずは小さなことから変えてみるのがいいと思います。
香山リカのすべての名言