出井伸之
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いまの問題点をわかりやすくビジュアル化して、社員の頭の中に焼きこむことは、経営者の重要な仕事だと思います。私の経営哲学は和です。なんて言ってもわかりません。社長としてのこの三年間、難しいことをいかに簡単に説明するかということを心掛けてきました。
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企業の寿命は短くなっています。会社の旬は18.1年というデータもあるほどです。一方、人間に目を向けると、寿命だけでなくビジネスマンとしての時間も伸びている。したがって、会社より自分の命の方が長いことになります。「会社に入ればそれで安泰」と思うのは大きな間違いです。
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マイクロソフトは我々とは関係がない。マイクロソフトはテクノロジーの会社ではない。
日本という国は足し算の文化だと思うのです。アメリカの文化は、Aがあって次にBに変わったら、Aはなくなってしまう。でも、日本の文化は違います。AプラスBという形で変わっていくことができるのです。AからBになっても、Aはなくならない。それが足し算の文化なんです。
二年前から私は、複雑系の経営ということを言っています。グループの企業価値の全体和は、その部分となっている事業ユニットの足し算よりも絶対に大きくなければいけない。この複雑系の経営は、ボーダーレス時代にふさわしいと考え、会社の部門を独立させる社内カンパニー制を強化しました。各事業ユニットであるカンパニーは執行役員に任せ、本社の十人の取締役会がグループ全体の経営の基本方針を決める形にしました。これは事業ユニットを切り離してソニー全体の価値を上げていく持ち株会社的な分散型モデルの第一歩です。
それぞれの業界にはルールがあって、そのルールを理解したうえで弱点を見つけてブレイクするようなことをすれば勝つことができる。ソニーが任天堂のモデルに競り勝ったプレイステーションが、今度はセガの新しいモデルから技術面でもビジネスモデルとしてもチャレンジを受けます。ビジネスはこの繰り返しです。
自分自身をひとつの会社だと考えなさい。そう考えると、月収を売上げだとすれば、個人価値に値するのは株価。通常企業ではどちらも見なければいけません。売上げが同じ会社であっても、株価が異なることは多いでしょう。
リーダーとはその立場に応じた発言ができるかどうかが問われる。
さっき山内さんが話してくださったことを全部書き留めておこう。ソニーは全部、その逆をやって、独自のフォーマットで新しいゲーム機を作ろうじゃないか。
多くの人が販売促進のことと思っているようですが、マーケティングとは売れるための潜在力を創造することです。
不本意だった仕事もやっていれば面白くなるし、思わぬ収穫もある。楽しんでいれば、必ず得るものがある。
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私は、事業部長時代によく叩かれました。何をしても、何もしなくても言われる。どうせ言われるなら、自分の信念通りやったほうがいい。
私のビジョンとしては、まずカンパニー制でAV・エレクトロニクスの経営を適切に進めていく。その上で、グローバルなネットワーク環境に備え、各カンパニーがより独立してビジネスが進められるように、適切な本社を備えた分散型の体制を整えておくということです。競争を優位に進めていくための準備を進めています。
私は33歳の時に、物流センターに配属されました。大手メーカーの本社の企画スタッフにとっては左遷と言われてしかるべき部署です。しかし、裏側からソニーを見ることができたことは後のキャリアで役に立ちました。また、ソニーで初めてコンピュータが導入されたのは物流センターでした。プログラミングも実際にやってみて、コンピュータを使えば様々なことが出来ると気付きました。後に、コンピュータ事業部の部長を務めることになりましたが、現場に出たことで最先端の技術に出会えたのです。
他人と異なる強みを持つことができれば、社外からも必要とされる人材になれる。
皆がやりたがることは、希望してもなかなかできません。一方、敬遠されることは挑戦させてもらいやすく、大きなチャンスをつかめる。
これまでは「求心力」の時代、21世紀は「遠心力」の時代。
私は経営をアメリカ型と日本型に簡単に分けられるものではないと思います。ソニーの場合、株主の45%は外国人。つまり45%の株主はアメリカ式の投資と同じ感覚でリターンを厳しく追及してきます。それに対し日本の株主の場合、銀行などの安定株主は、必ずしもリターンを厳しく追及してきません。これら二種類の株主の株主を同時に満足させる必要があるのです。アメリカ的経営と日本の企業としての在り方のふたつを共存させないといけない。
自分の仕事が繰り返しだと思わないこと。若い頃は書類の整理や上司の雑務などが多く、繰り返しの仕事をしていると感じるかもしれません。しかし、本当にそれは繰り返しでしょうか。例えば、レストランの給仕。毎日料理を運んでいるだけだと考える人もいれば、動線上のお客のグラスが空いていないか確認したり、常連の名前や好みを覚えようとしたりする人もいる。仕事自体は繰り返しでも、どのように捉えるかは自分次第。そして、後者の考え方でいればクリエイティブな仕事をできるようになるでしょう。
失敗しても危機ではなく、次のチャンスだと考える。ネガティブに捉えて悪い方向に進むのと、どちらが良いかは明らかでしょう。
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