唐池恒二
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「ななつ星」は専用窓口を設けて、コネやツテは一切禁じ、厳正な抽選を行うことを決めました。たとえ当社の経営陣といえども、「口利き」は一切できません。これは私自身も例外ではなく、実際に王貞治さんから電話を頂いたこともあります。さすがに世界の王さんですからむげには断れませんでしたが、一晩考えてから断りました。さすがに「世界の王」と言われる方だけあって、すぐに納得してくださいました。その後も今に至るまで、同様の相談はたくさん頂きますが、「あの王さんにもお断りしたんです」と伝えると、皆さん素直に納得してくださいますね。
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プロは、ある種の才能を持っていたり、ある段階に至っていれば、いわゆるビッグデータにもとづいてものをつくったりしません。己を頼んで、自身の感性や経験値、そして好みにもとづいたものづくりをし、そしてヒットを飛ばすんです。
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夢を共有すると、ワクワクする気持ちがどんどん波及していく。特に地元メデイアの記者は、九州から生まれたこのななつ星を、全国に発信しなければいけないという使命感を持って記事を書いてくれていたように思います。ななつ星が話題になるにつれ、東京の本社から、「もっとななつ星について書いてくれ」と指示があり、うれしかったそうです。「九州から世界一を生む」ということに、一緒になって喜び、同じ九州で暮らす者として誇りを持ってくれたのだと思います。
お客様は手間に対して価値を見いだしている。
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手間を掛けていないものをお客様は見抜きます。そんなものにお金を払おうとは思いません。
「自分マーケティング」ができる人に共通するのは、他者が見過ごすものを見過ごさない力。
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私はななつ星事業をスタートさせた時に、「世界一を目指そう」というビジョンを、プロジェクトに関わる社員やスタッフに伝えました。夢を語ると、参加するメンバーはまず「何をもって世界一なのか」と考える。そして一人ひとりが考えたことを持ち寄り、皆で話し合うことで、チームとしての価値観が醸成されたり、一体感が生まれたりする。
「うまや」は外国人のお客さまがとても多いんです。これからのビジネスを考えるうえで、日本の文化や伝統は、キーワードになると思います。
鉄道・非鉄道部門で共通している一番の魂は「鉄道だ」「鉄道ではない」ということは関係なく、私たちが目指すべきものとして、「私たちJR九州が地域を元気にするんだ」ということを一番高い概念として掲げているということです。
「手間をかけよう、気を込めよう」。営業部長に就いた時も社長になっても、従業員に対してずっとこの言葉を繰り返し伝えてきた。
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お客様は手間にお金を払います。それが1990年代、私がジェイアール九州フードサービスの社長在任時に学んだことです。当時、西鹿児島駅にあった直営カレー店は非常に売り上げがよかった秘訣は何種類にも及ぶスパイスを調合し、鉄板で炒めるという「手間」にありました。しかし、私が社長を交代した後にコスト削減を優先してレトルトカレーに変更したことから、売り上げが瞬く間に半減した。ちなみにこのお店は、私が社長に再び就任した時に手づくりの味に戻したところ、売り上げを回復させることができました。
組織はお役所的になりがちだからこそ、異端を尊ぶことに意味がある。そして果敢に挑戦した人をほめる。そうすると、放っておいても「みずからつくる」という社風が出来上がる。
コンセプトは自分で考えますね。おかげさまで「うまや」は国内で16店にまで増えました。中国・上海にも5店あります。
まちづくりはハードたけではなくてソフトが大事なんです。そこでイベントをする、あるいは人が動く。そこを訪れる仕掛けをする。
国鉄時代、九州に約2万7000人いた社員はJR九州発足時には約1万5000人に減り、鉄道から離れることになった仲間は数千人もいた。つまり私たちは実質的に、倒産と同じ経験をしたのです。その無念さや悔しさ、そして本州3社に追いつくんだという意地に加え、大赤字なのに収益事業がないという事実に対する危機感を原動力にしてきました。
JR九州が上場するメリットは、「いざとなれば政府が助けてくれる」という甘えがなくなること。
やたらに手間をかければいいというものではありません。お客さまの感動につながらない手間は、単なる自己満足に過ぎず、コストと徒労だけを残します。「お客さまを喜ばせるためにやるんだ」という方向性が、手間には必要。
マニュアル通りのサービスに、お客様は価値を感じません。高いお金を払うだけの価値があるサービスか否か、必ず見抜きます。
地方活性化のためには、まず自分たちが住む場所に誇りを持つことが何より重要。
「ななつ星」では、博多を出発後にランチのにぎり寿司が出ますが、福岡で一番おいしいお寿司屋さんが毎回列車に乗り込み、握りたてをお客さまの目の前に出してくれるのです。これは手間以外の何ものでもありません。でも、それがお客さまを感動させるのです。
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