矢野博丈
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ダイソーをご利用下さるお客さんも、買い物のスタイルがずいぶんと変わってきました。以前は、いろいろな商品の中から、宝探しをするように気に入る商品をじっくり選ぶお客さんが多かった。つまり、買い物そのものを楽しむという感覚が強かったと思います。しかしいまは、最初から欲しいものが明確で、それを買ってすぐお店を出たいというお客さんが増えてきました。コンビニと同じような使われ方をするようになってきたんです。
私は機会があると、社員に「恵まれた不幸せ」「恵まれなかった幸せ」という話をします。なぜ恵まれないことが幸せなのか。それは将来への不安が努力につながるからです。
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一人で始めた移動販売が社員3人規模まで大きくなったとき、「よし、ワシも経営の勉強をせにゃいかん」と思って、本を3冊買ってきたことがある。3冊とも松下幸之助さんの本だった。読んでみると、私が考えたこともないようなことがいろいろ書いてある。さすが経営の神様だと思った。その中のひとつに、「経営者には権限移譲する力、部下に仕事を任せる力が必要だ」と書いてあった。だからそれに倣って、それまで平社員だった社員3人をそれぞれ専務、部長、課長にしていろいろ任せることにした。ところがこれは上手くいかなかった。大きな会社で、ふさわしい年月と経験を重ねてきた社員に権限を委譲するのは、効果的なのかもしれない。だけど、当時のうちの社員は年月も経験も浅い。苦労もしないまま役職が与えられると何か勘違いしてしまって、権限移譲の悪い面ばかりが出てしまった。このとき私は、本に書いてあることをそのまま鵜呑みにしたらいけないと思った。
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お客さんは気まぐれなもので、結論はコロコロ変わっていきます。商売に最終結論なんてものはありません。「とりあえずの結論」として受け止めて対応していかないと、あっという間に時代から取り残されてしまいます。
何かの結果というものは、それまでの過程があって生まれてくるもの。だから過程を大事にすることが、いい結果を生み出すただひとつの道なんだ。それをしっかりと心において、ひとつひとつ積み上げていくことが必要だと思う。
商売が順調なときも、100円という安さだけではいずれ飽きられてしまわないかと、ずっと不安でした。
私と話したことがある人はよく知っていると思うけれど、私はダジャレやジョークが大好きで、隙があればどんどん会話の中に挟み込む。休憩時間や食事のときの会話だけじゃなく、仕事中でもジョークを思いついたら、すかさず口にする。なぜ私がジョークを言うかというと、それは場を明るくしたいから。もちろん、仕事は真剣にやるもの。かといって、しかめっ面でやっていても上手くいくというものでもない。どうせやるなら、楽しく明るくやった方がいいに決まっている。
あるとき、私の尊敬する経営者の一人ユニーの家田美智雄元会長が、「私はYTB運動をしているんだよ」とおっしゃった。何かと聞いてみたら、「上も下もなく、寄ってをする。これが楽しいんだ」と教えてくださった。家田元会長は、経営が傾いていたユニーを短期間で立て直した中興の祖です。自分でいろいろと苦労して結果を出してきた方なので、私も素直に真似しています。
以前は、POSで、お客さんはベーシックなものを選んで早く買い物を済ませたいという傾向が強くなってきた。そういう状況では、売れないアイテムを並べておく意味はないので、POSを使って何が売れていて、何が売れていないのかを把握できるようにしました。
性格を磨くには、ひとことで言うのは難しいが、「嫌なものは嫌」「自分さえよければそれでいい」という考え方に支配されないように、普段から心がけるしかないと思う。自分のためじゃなく、周りのために何ができるかを考えていれば、気が付いたときには周りから認められる人になっている。性格を磨くというのは、きっとそういうもんじゃないだろうか。
アイテム数を「絞る」のではなくて、売れているものを「抽出する」ことができるのがPOSのいい点ですね。最初からアイテムを絞るのは、売る側の独善的な決めつけにすぎません。しかしPOSなら、店頭に並べた商品の中から実際にお客さんが高く評価しているものが実績としてわかります。じつは私もそこを混同していて、「要は売れそうなアイテムに絞るんだろ」と言ったら、「社長、絞るんじゃなくて抽出するんです」と社員に怒られましたね。
私は毎朝、社員と一緒にトラックから倉庫へ荷降ろしをしている。以前、腰痛を理由に2年ほど休んだけれど、いまはまた毎朝社員と一緒に汗を流している。別に社員教育とか現場の情報収集とか、何か狙いがあるわけではない。単純にみんなでワイワイ言いながら作業すると楽しいからやっている。
いくらお金を持っていたり、地位があったりする人でも、性格が悪ければ人は離れていく。人間関係は人の心が絡むことだから、こうすればこうなる、という単純な方法はないけれど、必要なことをあえて言うなら「性格を磨く」ことが大事だろう。
環境が変われば最適な方法が変わる。これはもう仕方がない。けれども、環境が変わっても変わらずに役立つものがある。それが努力だと私は思っている。自分の役に立つかどうかわからん他人のノウハウを吸収するより、自分で努力する力を磨いた方がよほどいい。
本に書いてある考えやノウハウが現場で通用しないのは、決して間違っているからではない。会社の規模が違えば適した方法は異なるし、時代背景や景気の状況によってもやり方は変わってくる。そこを考慮せずに表面的なノウハウだけを取り入れようとするから失敗することになる。
私が経営コンサルタントをあまり信用してないのも、頭でっかちな傾向が強いから。コンサルタントには2種類いて、「頭はいいが実務をたいして経験してない人」「実務をやりながらセミナーなどをやっている人」。後者はまだいいが、前者はダメ。自分で体験してない人の言葉は、軽くて心に響かない。
もちろんPOSだって万能ではありません。小売店は店の方からも「これを売りたい!お客さんに使ってほしい!」と仕掛けることも大事です。お客さんの反応がよかったものを売るだけでは、後手に回ってしまいますから。
20世紀の企業経営は、成長を前提としていました。しかし、21世紀は明らかにそうではありません。21世紀の人間は、たくましくなければいけません。成長しなくてもいいけれど、日々の営みを積み重ね、執念深く自分の弱みを知り、備える必要があります。
商品を販売するうえで、誰しも「こういう商品を売りたい」とか「ビジネスはこうあるべき」という理念やこだわりを持っているでしょう。ただ、それは哲学であって結論ではありません。哲学は自分で決めるものですが、結論はお客さんが決めます。この違いが判らず、自分の哲学こそ結論だと勘違いしてしまうと、お客さんから見放されてしまいます。
いま思えば、商品を100円均一で売ったのは、安くしすぎでした。安さは、企業が生き残る条件ではないのです。物には価値に合った適正な価格があります。100円均一は、そんな当たり前のことをわからなくしてしまいました。いまは100円だけではなく、200円とか、2000円といった価格の商品も販売しています。
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