矢野博丈
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会社が大きくなりすぎることは恐ろしいと、ずっと思ってきました。流通業が栄枯盛衰を繰り返してきた歴史からもわかるように、小売業のオーバーストアは非常に恐ろしい。「オーバーストアは地獄じゃけ、あまりたくさん店を出さんでいい」と社員にも繰り返し言ってきました。
運命の女神は、不運も人生の修行と思って努力を続ける人に、ちょっとだけ味方してくれるのではないだろうか。私はそう思っている。
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このまま予定通りの売上をあげることができなければ、支払いが滞って倒産になる。このとき、生まれて初めてノイローゼというものを経験しました。一週間くらい、紫色の小便が出て「死んだら楽になる」なんてことも考えました。瀬戸際の体験をすると、「うちの会社は倒産しない」とは到底思えません。どれほど調子がよくても、ふとした拍子に谷底に突き落とされることがある。
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頑張れば大きくなれた20世紀と違って、21世紀は生き延びるために頑張らなければなりません。20世紀は信念・戦略・完成がキーワードでしたが、21世紀はどんどん変わる時代です。最近は、大創産業が成功してきたパターンややり方もすべて否定され始めました。
「人よりたくさん稼ごう」「あいつより出世しよう」というのは20世紀の価値観です。いまは「勝つこと」ではなく「生き延びること」を考えることが必要です。まわりがバタバタと倒れていく中、生き残っていれば、それだけで儲けもの。勝ち負けなんてどうでもいい、生きるか死ぬかの時代になったことを私たちは自覚すべきだと思います。
明るく店をやっていると、そのお客さんが何も買わなくても、ほかのお客さんが引き寄せられてくる。やはり明るさは、接客の基本なんだね。
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じつは、5年ほど前から「もしかしたら、もう会社はつぶれないかもしれない」と思うようになりました。業績が悪化してもどこかが買ってくれるだろうと。そうしてある程度安定してから、自分は人間として劣化してしまったなと感じるようになりました。つぶれるかもしれないという恐怖心があったからこそここまでやってこれたのです。
積み重ねた経験から出てきたノウハウは参考になる。だから耳を傾けるなら、自分でいろいろと苦労を重ねてきた人の言葉だろう。
いま振り返ると、私の仕事人生は、苦しい思い出ばかりです。とにかく何をやっても上手くいかないし、上手くいきかけると何かが起きて振り出しに戻される。その繰り返しで「自分は運が悪い」「能力がない」ということをつくづく思い知らされました。でも、結果的にはそれがよかったと思っています。
20世紀が「攻め続ける時代」だったとすれば、21世紀は「守り続ける時代」になるでしょう。野球でも何でも、攻めるときの方が楽しいけれど、いくら攻めてもそれ以上に失点するのがいまの時代なんです。会社を大きくして成長を目指すのではなくて、とにかく足元を固めて倒産しないことに全力を注ぐ。そうでなければ、これからは生き残れないと思います。
海外展開で一番最初は、100円均一と同じコンセプトで店を出せば海外でも売れるだろうと思って始めました。しかし、そうではありませんでした。海外市場で本気で成功しようと思えば、物流などインフラも整備して入っていかなければなりません。店をただ出しても売れないのです。
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何事も上手くいかなくて当たり前と考える人は、将来が怖くて仕方がない。その恐怖があるからこそ努力をして、なんとか危機を避けようとする。けれども、ずっとトントン拍子でやってきた人は、将来に恐れを抱かないから、備えが中途半端になってしまい、何かトラブルがあると一発で倒れてしまいます。
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会社が永遠に成長し続けることなんてありません。それは20世紀にだけ許された価値観で、いまはもう通用しないと心得た方がいいと思います。20世紀後半は、いいことだけが起こり続けた特異な時代だったんです。
腐ったらいけない。運が悪いときほど、自分は成長する機会を人より多くもらえたんだと考えた方がいい。
焦る必要はまったくない。一歩ずつでも、自分をいい方向に導いていけばいいんだよ。
知恵を働かせることができるのも、人間が将来を怖がる生き物だからなんです。せっかくそうした感性があるのだから、格好つけずに将来を思う存分におそれればいいと思います。不安が強ければ強いほど、努力ができるはずですから。
人間には、恵まれない幸せと、恵まれる不幸せというのがあるのです。私は運にも才能にも恵まれませんでした。運は神様が決めること。才能がないのは自分。運も才能もないという弱さ、怖さ、おぞましさ。神様は私に目の前のことを一生懸命やる以外に選択肢をくれませんでした。何度も職を変えて試行錯誤しながら、生き延びたくて頑張りました。
私は、会社というものは、いつかは駄目になるものと考えています。だからしばらく前までは、入社式で新入社員に「大創産業はあと5年でつぶれます」とスピーチしていました。もちろん、意図的に倒産させるつもりはありませんが、本気でそう思っていました。
海外展開で得た最大の教訓は、「小売業の海外展開は、自分の身内が海外でフランチャイズ展開するほどの覚悟で始めなければできない。つまり失敗しても自分がすべて責任をとるつもりで臨まなければ決して成功できない」ということでした。
たかが100円。されど100円。
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