畑村洋太郎
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マニュアルも現場に即さないものになっているケースが意外にあります。工場で従業員がロボットの検査をする際に、ロボットを囲む柵外から行うように決められていたが、実際には柵内で動く様子を見ないと本当の不具合がわからず、中に入って自己を起こしたという例もありました。でも悲観する必要はありません。失敗は必ず多くのことを教えてくれますから。
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創造力を身につける上でまず第一に必要なのは、決められた課題に解を出すことではなく、自分で課題を設定する能力です。
文章を上手に書けるだけでは、あまり役に立ちません。価値のあるものをテーマとして設定してこそ、はじめて人に読んでもらえます。文章について悩む人は、どう書くかに心を奪われがちですが、問題は何を書くかということです。
本来、文章と図や絵には等価性があり、量などの制限がなければ、どちらでも情報伝達が可能です。それを踏まえたうえで、相手に伝わりにくい文章は図や絵で、図や絵は文章で補う工夫が必要です。
企業は皆、組織が分化し、それぞれが自分の持ち場で効率よく働くことが重視される仕組みになっています。改革が叫ばれ続けていることですが、やはり細分化の弊害は残っていると思います。
新たな行動を何も起こさないというのは、ある意味での失敗なのです。
英語の言いかえを考えるときに限られますが、私がよく活用するのは、ウェブスターの英英辞典です。この辞典は、概念を他の言葉で代替するのではなく、それを構成する要素について解説を試みています。さらに嬉しいのは、初出がいつで、時代とともに概念がどのように変化したのかという時間軸まで加わっている点です。時間軸を加えると、概念を立体的に把握しやすくなります。これは日本の辞書に見られない特徴です。
効率化のために、企業はいろんな場面でマニュアルを精緻に作り、成功への筋道を確保しようとします。しかし、最近の工場の事故が示すように、それには必ず漏れがあるのです。どれだけ隙間なく問題をつぶしてマニュアルを作ったように思っても、漏れはあるものなのです。だからこそ、物事を進める際には、失敗した場合から発想し、そのためにいま何をすべきかという考え方が大事だと思うのです。
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自分で考えて自分で失敗するべきで、そうしないと新たな道は開けない。
相手に伝わりにくそうな言葉があれば、その言葉が使われていた社会的状況や、言葉を使っていた人々の生活や考え方についても一緒に言及してみましょう。背景を同時に伝えることで、言葉の意味をより深く相手に伝えられるはずです。
相手に正確かつわかりやすく伝えるためには、文章かビジュアルかという二者択一に陥るのではなく、お互いを補完し合うような形で使うことが理想です。写真で具体的に現場を見せて、文章を書きこんで事実を補足します。こうすると文章とビジュアルの相乗効果で、「1+1」が「2」どころか「5」にも「10」にもなるのです。
印象記は誰かに見せることを前提としていませんが、書くときは人に見せても伝わるように整理しています。第三者が見ても理解できるということは、観察した事象を自分がきちんと抽象化・知識化できているということを意味しています。抽象化・知識化していない雑記は、単なる感想文です。知見と呼べるレベルまで高めてこそ、あとで自分の仕事に活かすことができます。
安全な道が一番危険な道になる。
いまの企業の中では、真面目ということの質が変わっていないだろうか。最近、頻発する工場の火災や爆発事故を見てそう感じています。私は組織や人の犯した様々な失敗を研究し、その中から新たな知恵を学ぶ失敗学というものに取り組んでいます。この視点で見ると、いまのビジネスマンたちは自分で考えるということを忘れかけていないかと思えるのです。「もし問題が起きるとしたら何か」と考える真面目さが必要だと思うのです。
私の場合、アウトプットした文章を寝かせるのではなく、書く前に思考を熟成させることを意識しています。いきなり書きはじめると、インパクトが強いだけの情報に思考が振り回されることがありますが、時間を空けると、余分なものが削ぎ落とされて大事な情報だけが残ります。もちろん情報を寝かせている間にも、頭はフル回転しています。
自分の持っている知識やノウハウを文章化して後進に伝えたのに、結果的に何も伝わっていないことがあります。どうしてこのようなことが起きるのか。それを説明するには、まずものごとが「わかる」仕組みを紐解く必要があります。相手が「わかる」状態になるには、まず要素を過不足なく伝える必要があります。たとえば知識を構成する要素が5つあるなら、きちんと5つ伝える。そして構造を伝えます。部品だけでなく、設計図を一緒に伝えるのです。
放っておくと、失敗は成長する。
結局ね、数に強くなりたいと願うなら、本を読んでいるだけではダメなんです。数字を作って、暗算して、電卓を必死に叩かないと。頭と手を必死に動かして数字センスを鍛えましょう。
文章だけでは正確かつ分かりやすく伝えることが難しいとき、助けになるのが図や絵や写真といったビジュアルです。ただ、図や絵が文字より優れた伝達手段だと言いたいわけではありません。文章は情報量や具体性で劣りますが、事実を事実として説明するという点では、むしろビジュアルより優れています。
価値のあるテーマを設定するには、自分の目でものを見て、考えて、決めて、行動するしかありません。何を解くべきかを教えてくれる人は誰もいません。自分で仮説を立て、試行錯誤を繰り返して課題を見つけていくほかないのです。
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