開高健
3
釣師にはいろいろと厄介な気質があり、いい道具なら一も二もなくとびつくという面がある。また道具のよしあしを見わけることにかけては、日ごろどんなケチンボでもコウと狙いをつけた釣道具にはあきれるほどの大金を投じて悔いないから、デパートにさまよいこんだ女よりもまだ目が鋭いのである。
2
無駄を恐れてはいけないし、無駄を軽蔑してはいけない。何が無駄で何が無駄でないかはわからないんだ。
おだやかになることを学べ。
1
生まれるのは、偶然生きるのは、苦痛死ぬのは、厄介。
文学はファッション・ショウじゃない。古いも新しいもない。進歩も退歩もない。わかりきったことじゃないか。
《正直が最善の策》というのは熟慮、権謀を尽くしたあげくの人が吐く痛苦の言葉だ。
毒蛇は急がない。
犬好きも猫好きも、どこか病むか傷ついているかという点では完全に一致しているのではないかと思う。
4
日本人もまたたいした精力と規模で自然の破壊にいそしんでいる。日本の田には小川の小ブナも夕焼けの赤トンボもいず、草むらの恋人たちは耳もとに蜜バチの唸りを聞けないでいる。日本の田は稲こそ生えているが、もう自然ではなくて、化学粉末ですみずみまで殺菌された屋根のない工場となってしまった。
死を忘るなmementomori。
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悠々として急げ。
私は鍛錬訓練が普通にできる人が好き。役者の場合鍛錬訓練はお箸の上げ下ろしと一緒。
スパイ小説とボルノは一人の人間の大脳皮質にとってはほぼおなじ役割をする。
遠い道をゆっくりとけれど休まずに歩いていく人がある。
釣りはままならないものである。むろん、だからこそ、男は今日もまた竿を肩に、家を出て河へ、海へと向かうのだけれど、男にとって人生そのまま、遊びもまた……。
漂えど沈まず。
右の眼は冷たくなければならず左の眼は熱くなければならないのである。いつも心に氷の焔をつけておくことである。
私は小説家だが、釣りの本はこのほかに「フィッシュ・オン」というのがあって、書くことは語ることにほかならないのだから、釣人不語などといいつつ二冊も書いてるあたり、すでに釣師として失格だろうと思っている。
二十五歳までの女は自分だけを殺す。三十五歳までの女は自分と相手を殺す。三十五歳以後の女は相手だけを殺す。
海が鳴る夜は人も答えねばなりません。
開高健のすべての名言