開高健
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明日、世界が滅びるとしても今日、あなたはリンゴの木を植える。
朝露の一滴にも天と地が映っている。
教えるものが教えられるのが教育の理想である。
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サイゴンでは毎日のようにプラスチック爆弾が破裂して、大半は無告の民が死んで行くわけですね。キャバレーの女性のバラバラの肉体、血まみれの腸、目玉、太ももを忘れようとしても忘れられないけれども、いざ書こうとすると、道端のハイビスカスの花がどう揺れていたかがよみがえってくる。
2
波のなかに岩があるたくさんの獣が遊んでいる。
東南アジアへ出かけていく折があれば必ず、ネズミ料理を食べることにしている。その肉はあっさいりとして食用ガエルやトリ肉に似ているが、カエルのように水っぽくはなく、トリよりは野性味があり、もっとコクがあって精妙である。
大人と子供のちがいは持っている玩具の値段のちがいだけである。
5
右の目は熱く、左の目は冷たく、心には氷の炎を持て。
しばらくぶりで出会ったとき、握手をして、さてそれから、その後いろいろなことがありました、という意味のことをいうのに、「橋の下をたくさんの水が流れました」という。
思いぞ屈してこころ滅びる夜は、油砥石をとりだしてきて、鈎をせっせと研ぐ。
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入ってきて人生と叫び出て行って死と叫ぶ。
とにかくいうべきことはハッキリといっておく必要がある。無益か有益かはやってみなければわからないが、いうべきことはいわねばならぬ。
思想は本屋へいけば即座に手に入るが、皺を手に入れるのはつらい時間がかかるものだよ。
ハンティングの体験は深いものだったね。一発のライフルの銃声が引き起こしたものはいっぱいありまして、私はいまも戸惑っているようなところがある。
あるときロンドンを名所探訪で歩きまわっていたら、まったく偶然に一枚の銅板に出会わしたことがある。それはというのである。私の釣りは技も心もまだまだこの一句から遠いところにあり、むしろ川岸にたつと、いよいよ心乱れてならないのである。
月並みこそは黄金。
自然を温存するためには人間は謙虚にならなければならない。
釣師は心に傷があるか・・・釣師は心に傷があるから釣りに行く。しかし、彼はそれを知らないでいる。
臆病はしばしば性急や軽躁と手を携えるものだが、賢明は耐えること―耐え抜くことを知っている。
海を愛するのは賢者であり、山を愛するのは聖者である。
開高健のすべての名言