佐藤可士和
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うまくいった仕事を振り返ってみると、「あの打ち合わせの5分が決め手だった」と気づくことがあります。それが「小さな奇跡」です。物事が決まっていく過程にはいろんな奇跡的要因が重なっています。どんな会社もプロジェクトも商品も「その場にどんな人がいて何を言ったか」の集積でできあがっているのです。
僕は遊びでも何でも気になったものはいつもとことんまで追求しています。掘り始めたら鉱脈に突き当たるまで徹底して掘る。そこまでやれば自分のプラスとなるリターンが大きいからです。むしろ途中で掘ることをやめてしまったらそれまでの時間がもったいない。
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言語化は重要で、言語化できないのはきちんとわかっていないからだ。漠然と感じていることと、わかっていることとはずいぶん違う。完全に理解し把握していないと、言語化ができない。こう言えばピッタリくる、という言葉を探し続ける。そうしていると、フィットする瞬間が出てくるようになる。その精度も高くなりスピードも上がってくる。
参加メンバーとして何も発言しないなんて論外で、自分のパフォーマンスを出せない人は存在意義がありません。打ち合わせでその人の仕事のレベルはわかるものです。
不満は完全になくなることはない。しかしそれでいい。不満は次につながる課題になる。黙っていては、不満は不満のままだ。感じたら言葉にして伝え、コミュニケーションを取る。そうすれば、不満は納得となり、前向きなエネルギーへと転換できる。
ドコモの携帯電話のデザインをしたときに最初に思ったのは、最先端の技術があるのに、端末のデザインがそれを正確に伝えきっていないということでした。そこで僕は、携帯電話プロジェクト全体をひとつのパッケージにして表現しました。デザインを通してドコモの強みとしているものを伝えたかったのです。
聞く作業には集中力を使うし、正直疲れます。でも、表面的な言葉だけでなく、相手の意識の部分まで踏み込んで、とにかくすべての情報を集めたい。それを全部並べて、優先順位を付けていくと、相手の中のブレない部分が見つかります。難しい作業ですが、ある視点を見つけられた瞬間は本当にうれしいです。
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「時代をつかんだ」と言っていただくことがありますが偶然とか、運とかそういうものだけで今の場所に来たわけではないと思っています。ちょっと比喩的ですが「波は誰にでも平等に来ているのだ」と僕は思います。上手なサーファーは一緒に波を待っていても一見、大波とはわからない波のうねりに乗ってボードに立ってしまう。逆に、下手な人はいくつ波が来ても乗れませんよね。波をつかめるかつかめないかは波に乗るためにスタンバイできているかどうか偶然や運ももちろんあるでしょうが僕なりに波をつかまえようと努力し続けたから今にいたったのだと思っています。
あえて極論を考えるのも有効です。「そもそもこの仕事は必要ないのではないか」くらいの思いきったことを考えると、ふっきれた気持ちになって、一気に視野が広がります。
答えは必ず目の前にある。
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僕は最初の打ち合わせでそのプロジェクトの打ち合わせの回数を決めます。何回戦目で決勝かわからないまま進めるとダレがちですし、「とりあえず、そんな感じで」と曖昧に終わらせたくない。最後に必ず「これでいいですね」と決めた事項を確認します。そうすると、次までにそれぞれ自分がするべきことがクリアになる。
広告のアートディレクターといえば写真やデザインのアイデアを出して、誰に撮影してもらうとか、どんなレイアウトにしようとかを提案し、それを新聞やポスターなどに落としていくのが仕事です。でも僕の場合は、それを拡大解釈して、紙や映像だけでなく、すべての目に見えるものをコントロールしていくことで、メッセージをより伝えやすくすることが仕事だと思っています。
デザインの仕事を始めたころは、自分がイメージをひねり出して、相手にハメ込む。そのために相手を説得する、みたいなことをやっていた。でもそれだと、なかなかうまくいかなかった。それが変わったのが、ホンダのステップワゴンの仕事をしたときです。あのクルマにはホンダが社運をかけていて、年間何十億円という広告予算が組まれていました。とてもじゃないけど、自分のものなんて思えない。当たり前なんですけど「よくよく考えたら、このクルマはホンダのものだ」。そう思ったら肩の力が抜けて、素直に商品が見えるようになりました。
とにかく相手がやりたいことを聞こう。上手く表現できない人の言いたいこと、やりたいことをカタチにしていこうと思ったんです。答えは相手にあるから僕自身のアイデアがなくなるんじゃないかという恐怖心から解放されました。
超一流と呼ばれる人たちは総じて場の空気や人の気持ちを察する能力が高く相手を不快な気分にさせないものです。
物事を客観視するには、まず自分の思い込みを捨てることが重要です。先入観を捨てるコツは、仕事に直接的な関係のない第三者になったつもりで物事を考えること。たとえば親戚のおばさんや学生時代の友人ならどう考えるのか、と想像することで、先入観は消え去ります。
僕の場合は、妻が会社のマネジャーを務めているのですが、彼女が僕とは違う世界から、いろいろな情報を持ってきてくれています。
セブン&アイの鈴木敏文会長から「セブン‐イレブンをもっと良くしてくれ」と頼まれました。セブン‐イレブンは既に業界トップで、売り上げも決して悪くはありませんでした。「その中で僕がやることはあるのでしょうか」と正直にお話ししました。しかし鈴木会長は「現状は全然ダメ。今は20~30代の男性が使っているだけで、女性客の来店が少ない。今後は高齢社会で80代もコンビニで買い物するような時代になるのだから幅広い年齢層が利用する可能性がある。だから売り上げは最低でも倍にはできる」と言われました。そして、「可士和くんがやれることはたくさんある」と話され、僕もそこでなるほどと、スイッチが入り戦略を考えました。
ブランディングは、社会の中でどういう位置でどの程度の面積を占めているか、その領域をはっきりさせる作業。
僕自身は常に風通しのいい人間でありたいんです。僕の仕事は、毎回相手に合わせて考えていくことです。体も頭も柔らかく保っておかないと、しなやかな対応ができません。
佐藤可士和のすべての名言