佐藤可士和
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デザインの仕事を始めたころは、自分がイメージをひねり出して、相手にハメ込む。そのために相手を説得する、みたいなことをやっていた。でもそれだと、なかなかうまくいかなかった。それが変わったのが、ホンダのステップワゴンの仕事をしたときです。あのクルマにはホンダが社運をかけていて、年間何十億円という広告予算が組まれていました。とてもじゃないけど、自分のものなんて思えない。当たり前なんですけど「よくよく考えたら、このクルマはホンダのものだ」。そう思ったら肩の力が抜けて、素直に商品が見えるようになりました。
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僕は2年前からカバンはもたず、手ブラで外出しています。たとえば手帳やデジカメは、携帯電話のスケジュール機能やカメラ機能で代用できるし、名刺はその日に必要な枚数だけポケットに入れればいいので、名刺入れもいらない。財布も、最低限必要なカード類と紙幣は小さなカードケースに収まります。このように惰性で持ち歩いているものをカバンから取り除けば、手ブラは無理でも荷物は3分の1に減る。荷物が減れば、気持ちもグッと軽快になります。
「その場」を包む空気はとても重要です。打ち合わせ場所の環境は決定に何らかの影響を与えていると思います。たとえば、恋人に告白する際、感じのいいレストランを予約したりするでしょう。それは感覚的にその場にふさわしく、相手や用事に合わせて選ぶからですよね。ビジネスシーンでは、皆さん、そういったことはあまり考えないかもしれないけれど、会議や打ち合わせも同じ。人間ですから環境の影響を受けるはずなんですよ。
聞く作業には集中力を使うし、正直疲れます。でも、表面的な言葉だけでなく、相手の意識の部分まで踏み込んで、とにかくすべての情報を集めたい。それを全部並べて、優先順位を付けていくと、相手の中のブレない部分が見つかります。難しい作業ですが、ある視点を見つけられた瞬間は本当にうれしいです。
整理とは快適に生きるための本質的な方法論。捨てる勇気が価値観を研ぎ澄まし本当に大切なものを導き出す。
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物事を客観視するには、まず自分の思い込みを捨てることが重要です。先入観を捨てるコツは、仕事に直接的な関係のない第三者になったつもりで物事を考えること。たとえば親戚のおばさんや学生時代の友人ならどう考えるのか、と想像することで、先入観は消え去ります。
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不満は完全になくなることはない。しかしそれでいい。不満は次につながる課題になる。黙っていては、不満は不満のままだ。感じたら言葉にして伝え、コミュニケーションを取る。そうすれば、不満は納得となり、前向きなエネルギーへと転換できる。
同業者の中には「クリエイティブな作業は一般の人には理解できない」ということを言い訳にして、顧客を煙に巻くタイプが多いと思います。僕はその逆で、相手の霧を晴らしてあげたいんです。裏表なく、駆け引きもせず、わかりやすく、かといって言いなりになるのではなく、相手が本当に望んでいることを聞いて、引き出して、それをカタチにしていくのが僕の仕事なんです。目に見えている部分は、100ある仕事の最後の1%にすぎません。
言語化は重要で、言語化できないのはきちんとわかっていないからだ。漠然と感じていることと、わかっていることとはずいぶん違う。完全に理解し把握していないと、言語化ができない。こう言えばピッタリくる、という言葉を探し続ける。そうしていると、フィットする瞬間が出てくるようになる。その精度も高くなりスピードも上がってくる。
僕は遊びでも何でも気になったものはいつもとことんまで追求しています。掘り始めたら鉱脈に突き当たるまで徹底して掘る。そこまでやれば自分のプラスとなるリターンが大きいからです。むしろ途中で掘ることをやめてしまったらそれまでの時間がもったいない。
ブランディングは、社会の中でどういう位置でどの程度の面積を占めているか、その領域をはっきりさせる作業。
うまくいった仕事を振り返ってみると、「あの打ち合わせの5分が決め手だった」と気づくことがあります。それが「小さな奇跡」です。物事が決まっていく過程にはいろんな奇跡的要因が重なっています。どんな会社もプロジェクトも商品も「その場にどんな人がいて何を言ったか」の集積でできあがっているのです。
「時代をつかんだ」と言っていただくことがありますが偶然とか、運とかそういうものだけで今の場所に来たわけではないと思っています。ちょっと比喩的ですが「波は誰にでも平等に来ているのだ」と僕は思います。上手なサーファーは一緒に波を待っていても一見、大波とはわからない波のうねりに乗ってボードに立ってしまう。逆に、下手な人はいくつ波が来ても乗れませんよね。波をつかめるかつかめないかは波に乗るためにスタンバイできているかどうか偶然や運ももちろんあるでしょうが僕なりに波をつかまえようと努力し続けたから今にいたったのだと思っています。
ドコモの携帯電話のデザインをしたときに最初に思ったのは、最先端の技術があるのに、端末のデザインがそれを正確に伝えきっていないということでした。そこで僕は、携帯電話プロジェクト全体をひとつのパッケージにして表現しました。デザインを通してドコモの強みとしているものを伝えたかったのです。
環境や思考を整理することはよいデザイン、いい仕事に繋がる。もっとも、子供ができてからは、ちょっとくらい散らかっても許せるようになりましたが。
参加メンバーとして何も発言しないなんて論外で、自分のパフォーマンスを出せない人は存在意義がありません。打ち合わせでその人の仕事のレベルはわかるものです。
コンセプトが曖昧なまま何かをデザインしたとしても、心に響くものにはならないでしょう。
情報を整理できても、いざ問題解決策を見つける段になって行き詰まってしまうこともあります。何度考えても、平凡で同じ結論しか出なくなることがあるのです。こういう場合は、たいがい視野が狭まっているものです。自分がそうした状態に陥っていると感じたら、僕は離れてみるようにしています。客観的な視点でものごとを見るのです。
広告のアートディレクターといえば写真やデザインのアイデアを出して、誰に撮影してもらうとか、どんなレイアウトにしようとかを提案し、それを新聞やポスターなどに落としていくのが仕事です。でも僕の場合は、それを拡大解釈して、紙や映像だけでなく、すべての目に見えるものをコントロールしていくことで、メッセージをより伝えやすくすることが仕事だと思っています。
半分は依頼するクライアントの視点、半分は消費者や一般的に企業を見ている外部の人の視点を持つことが必要。
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