佐藤可士和
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競合コンペだとどうしても、オリエンテーションで渡される表面的なスペック情報だけでデザインを考えることになってしまいがちなので、アウトプットは条件だけを当てはめたあたりさわりのないものになってしまいます。僕はスペックの背後にある本質的な部分が知りたいのです。
アイデアとはそもそも、何かの問題を解決するための施策です。アイデアを出すことそのものが目的ではなく、アイデアによって何かを達成することが狙いのはず。そう考えると、アイデアを考える以前に、解決すべき問題が何かを客観的に把握することが大切。
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目の前の問題に没頭するあまり、視点がディテールのほうに狭まって、問題が客観的にみえなくなってしまうことがあります。本質を探るということは、一見、物事の奥深くに入り込んでいくようなイメージがあります。しかし、むしろどんどん引いて離れていったほうが、より早く物事の本質にたどり着くことができます。
デスクの横に、整理の避難場所としてフリースペースを設けています。これは、その場ですぐに分類しきれないものを暫定的に置くためのスペースです。僕の場合、仕事と密接な関わりのないサンプルや雑誌類をここに置くことが多いです。あくまでも「とりあえず」の処置なので、避難期間は2~3日で、長くても一週間。折をみて処分するなり、新たな定位置を決めるなどの判断を下すので、フリースペースがモノで溢れることもありません。
僕は会議を決勝戦と考えています。打ち合わせは一回戦、二回戦、そして準決勝に相当する。つまり、打ち合わせも練習ではなく試合なんです。
デザインはビジョンを設計すること。企業が将来こんな存在になりたい、こんなことをしたいという抽象的なものを、見える形にする作業。
僕は問診という言葉を使っていますが、デザイン制作をする前に、「相手が考えていることは何か」「どういった形のコミュニケーションを望んでいるか」といった本質を知りたいのです。僕の場合、問診をして、かなり深いところまで触れて初めてデザイン制作が可能になります。
別に会社が嫌になったということではないんです。もっと仕事のフィールドを広げたかった。広告代理店は広告が一番上にくるが、僕はデザインが一番上にくる仕事がしたかった。
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仕事は依頼を受けて、クライアントの経営者や現場の責任者の方とじっくりと打ち合わせをすることがほとんどです。独立する前の博報堂時代は競合コンペをやることもありましたが、いまはほとんどやっていません。もともと競合コンペはあまり好きではありませんし、僕のような仕事のスタイルの人間には向かない形式だと思います。
名刺の管理が甘いと、必要なときに見つけるのがひと苦労。アイウエオ順に整理するのが一般的なようですが、僕のオフィスではプロジェクトごとにファイルして、各担当者が保管することにしています。ファイルはオフィス内での定位置を決めてあるので、僕と担当者が別々にファイルをもつ必要もない。プロジェクト終了後は、必要な名刺をピックアップしてマネージャーに渡して、PCで業種別にデータベース化。これですっきりと管理できます。
自分がマネジメントする側にたつと、目の前の仕事の、何からとりかかるか常に選択を迫られます。僕自身は何であれ「決めてしまう」ことを重視していますね。たとえばあるアイデアについて「この会議で一度決めよう」といって、今のところの結論を出すんです。早く決めた分、時間はまだあるのだから、結論を出したアイデアについて前向きにより良いものを考えていく。さらに良いアイデアが出たらアップデートすればいいんですから。
毎回真剣勝負でやらないと勝ち上がれない。
半分は依頼するクライアントの視点、半分は消費者や一般的に企業を見ている外部の人の視点を持つことが必要。
デスク周りで厄介なのが書類や資料です。紙の整理は、同じものを省いてひとつにすること、また可能なかぎりデジタル化して紙をなくすことが大切です。プレゼンの資料などは、結果に至る過程の段階のものはバッサリ捨てて、最終結果のものだけを保管すれば、大幅にスリム化できます。もし捨てるのに忍びない資料があれば、いったんまとめて段ボール箱へ。1力月や1年という期限を決めて、そのリミットまでに使わなかったら処分します。
以前僕が手がけた、銀色の未塗装の缶に青一色で直接プリントを施した「キリン極生」。あれも「そもそも発泡酒とは何だ?」という愚直な疑問から導いたデザインでした。当時、発泡酒は「本当はビールが飲みたいけど……」というネガティブなイメージで飲まれるような代替品でした。だったら「その価値を変えよう!」と考えました。ファッションでいえば、高そうなスーツで決めるのではなく「好きだからTシャツにジーンズのスタイル」という感じ。そこから、コスト減とスタイリッシュさを両立させる、シンプルな一色印刷の缶が生まれたわけです。「売れる発泡酒を……」という視点から思考を始めたら、きっとたどり着けなかった解だと思います。
問題を正確に把握できさえすれば、自然とアイデアは出てくる。
いま、世の中で起きている問題のほとんどがコミュニケーション障害だと言ってもおかしくない。こちらの考えていることが相手に上手く伝わっていないから、いろんな問題が起こる。素晴らしい技術があるのに売れない、いいと思ってもらえないというのも、実はコミュニケーションの問題です。
環境や思考を整理することはよいデザイン、いい仕事に繋がる。もっとも、子供ができてからは、ちょっとくらい散らかっても許せるようになりましたが。
物事を考えるとき、否定的な面ばかりが目について、ポジティブな発想が浮かんでこないという経験はないでしょうか。しかし、同じものを見ていても、見方を変えることで、マイナスをプラスに転じさせることは可能です。たとえば「地味」「インパクトに欠ける」というイメージも、視点を変えれば「品がある」「安定感がある」というプラスのイメージで捉えることができる。このように逆の視点から物事をみると、思考の行き詰りを防げます。
「感じる」という言葉が多いな……。それに気づいたのは、釣り具メーカーとして世界トップシェアを持つ、ダイワ精工からブランディングの依頼を受け、半年経った頃でした。その間、数か月はずっとヒアリングをし続けていました。最初は気づかなかったんです。しかし社員の方々の声を何十、何百と並べることでそれが見えてきた。「手元の感覚が」「あの感触が」なんて、これまでおつき合いしてきたどのクライアントでも一度も聞かなかった言葉でした。会社の存在意義、いわば本質がそこにあると見極められた瞬間でした。
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